② 絵本の絵から情報を読み取り、状況を理解しながら,児童は相手の話を聞くことになるため,「聞 コミュニケーションの始まりは,まず「聞く」ことからである。本研究の目指すコミュニケーション能力を育む上で,英語に初めて出会う児童がまず身に付けるべき力こそ,「聞く力」であると考える。樋口らは,英語絵本の読み聞かせを通して,相手の話を聞き取る力や未知語・表現の意味を類推・推測する力,大意をつかむ力が育成されると述べている(13)。 では,児童は実際どのような思考を働かせながら聞いているのであろうか。英語絵本「THE VERY HUNGRY CATERPILLAR」(14)を例に挙げてみる。この絵本はとてもよく知られている絵本である。たまごからかえった青虫が,毎日のように「おなかがすいた」と言いながら様々なものを食べ,最後には美しい蝶になるといったお話である。 まず,絵本の始まりのページを開いたときに目に映るのが,大きな月,木,葉,そしてその葉の上にあるのは丸くて小さな白いものである。見開き2ページにわたって描かれている何とも静けさが広がる風景から,子どもたちは様々な物語を想像するだろう。そしてそのページには,次に示す1文が書かれている。 低学年の児童にとって,初めて聞くような英語の語句ばかりで表現されている。本文を指導者が読んだ音声情報だけで,内容を理解することは難しい。単調に音読しただけでは,児童の「聞きたい」といった思いにもつながらない。 そこで,有効な手だてとなるのが「非言語的要素」である。絵本に描かれている絵,読み手が発する声の調子や表情の工夫,描かれる絵を指し示したりその情景を体で表現したりする様子など,様々な視覚情報や聴覚情報を手掛かりとして,児童は物語の内容を推測し始めるであろう。それが,「聞く力」につながるのである。 英語を聞いて理解する力がまだ身に付いていない段階での英語絵本の読み聞かせだからこそ,文字以外の様々な情報をもとにあらゆる感性を動員し,絵本の内容を推測しながら聞くといった力いてわかる」体験をさせやすい。 In the light of the moon, a little egg lay on a leaf. 【月明かりの中,葉っぱの上に小さなたまごがあります。】 (【 】は筆者の訳) 小学校 外国語教育 5 を育むことに適しているのである。そして,聞いてわかったという経験こそが,今後の聞くことに対する意欲にもつながっていくと考える。そこで,学習時間に取り扱う英語表現に即した英語絵本を選定し,読み聞かせを行うことで,「聞く力」の育成に着目した実践を行う。 (2)「聞く力」から「伝える力」へ 前項でも述べたように,英語絵本の読み聞かせは,児童のあらゆる感性を刺激し,推測しながら聞く力を育む有効な手段である。それと同時に,絵本は読み手と聞き手を媒介するコミュニケーションツールとしての活用も有効であると考える。 初めての読み聞かせでは,様々な情報を手掛かりにして児童は想像しながら聞くであろう。そして,同じ絵本の読み聞かせを2回,3回と重ねていくことで,児童が話の内容を思い出しながら進んで声に出し,読み聞かせを楽しむ姿が見られることが予測される。そこで指導者は,次の展開につながる質問を取り入れたり,描かれている絵を指し示して何かを尋ねたりしながら児童の発話を促すような読み聞かせの工夫を行う。そして,その姿に反応する児童の姿を価値付けていくことで,児童に発話することの楽しさを実感させることができると考える。 また,絵本の内容と関連して,児童が自身のことについて伝えるようなやり取りを行うことも重要である。前項同様「THE VERY HUNGRY CATERPILLAR」を例に挙げてみる。この絵本の途中には,様々な食べ物が登場する。りんごやいちご,オレンジなどの果物のほかに,チョコレートケーキやソーセージ,アイスクリームなど,児童にとっては身近でなじみのある食べ物ばかりである。児童は,「これが好き」「これはあまり好きじゃない」など,好みが分かれるものもあるだろう。そういった児童に対して,読み手である指導者が「I like apples. Do you like apples? Yes? No?」と尋ねるのである。 もちろん,言語だけでは,児童は指導者が何を言っているのかを理解することは難しい。そこで,様々な非言語的要素を工夫しながら発問を繰り返し行うことで,児童が「先生はこんなことを言っているのかな」と発問の内容を推測できるようになると考える。そして,指導者の発問に対して,うなずいたり首を振ったりしながらジェスチャーで伝える姿,日本語で答える姿,英語で答える姿 129
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