もちろん,社会のグローバル化の進展への対応は, 英語さえ習得すればよいということではない。我が 国の歴史・文化等の教養とともに,思考力・判断 力・表現力等を備えることにより,情報や考えなど を積極的に発信し,相手とのコミュケーションがで きなければならない。 (下線は筆者による) 英語はあくまでもコミュニケーションツールの一つである。いくら高い語学力が身に付いていたとしても,互いの考えや気持ちを共有しながら人とよりよい関係を育むことのできるコミュニケーション能力がなければ,その力は生かされない。つまり,今の子どもたちをグローバル人材として育成していくためには,語学力だけでなく,コミュニケーション能力も同様に必要とされているのである。 126 いろいろな価値観や背景をもつ人々による集団にお いて,相互関係を深め,共感しながら,人間関係や チームワークを形成し,正解のない課題や経験した ことのない問題について,対話をして情報を共有 し,自ら深く考え,相互に考えを伝え,深め合いつ つ,合意形成・課題解決する能力 されている。一方で,次のようなことも述べられている(4)。 このような中,気になる調査結果がある。文部科学省が実施した調査によると,「現代の新入社員の最も弱いところ,不足と感じるところ」の一つとして,「自分の考えや思いの発信が弱い」といった点が挙げられている(5)。「情報や考えなどを積極的に発信」する力が求められているにもかかわらず,母語によるコミュニケーション能力の低さが,現代の日本の若者の課題点の一つとなっている。 本項で述べてきた社会背景や日本の若者の現状から考えると,この「コミュニケーション能力」こそ,今の日本人に育まれるべき力ではないだろうか。 (2)求められる「コミュニケーション能力」 では,この「コミュニケーション能力」とは具体的にどのような力なのであろうか。文部科学省の有識者会議において,次のように定義されている(6)。 このように,一概に「コミュニケーション能力」といっても,今求められる能力には様々な力が関連していることがうかがえる。 授業で発音・語彙・文法等の間違いを恐れずに積極的に英語を使おうとする態度を育成すること グローバル化社会の急速な進展に伴い,特に外国語によるコミュニケーション能力は,限られた業種や職種だけでなく,生涯にわたる様々な場面で必要とされることが想定されている。自分の国の人々だけでなく,国境を越えて様々な価値観や背景をもつ人々と外国語を通してコミュニケーションを図る機会が増えるであろう。そこでは,言語や文化の違いにより,自分が本当に意図することが伝わりづらい,相手の意図することが理解しづらいといった状況に遭遇することも考えられるのではないだろうか。 現行小学校学習指導要領の改訂に向けて行われた英語教育の在り方に関する有識者会議の中では,以下のような点が指摘されていた(7)。 これは,今後確かな語学力を身に付けるために必要な姿勢であるとともに,コミュニケーション能力を支える一つの重要な姿勢ではないだろうか。これからの社会を考えたとき,意思疎通がうまく図れず立ち止まってしまうのではなく,言語などの間違いを恐れずに粘り強く挑戦する気持ちを大切にしながらコミュニケーションを図ろうとする姿勢は,これまで以上に必要となってくると考える。このような姿勢で,相互理解を図りながら,共に課題を解決していくためのコミュニケーション能力が求められているのである。 第2節 本研究で目指す子どもの姿 (1)低学年の発達段階から 一方的に自分の伝えたいことを話すだけでは,よりよいコミュニケーションとは言い難い。コミュニケーションを図るときには,必ず「相手」が存在し,相手が理解できるように伝えることが重要である。また,聞いている側も,ただ聞くのではなく,相手がどのようなことを伝えようとしているのか,耳を傾ける姿勢が重要である。つまり,互いに相手意識をもって意思疎通を図ろうとすることが,コミュニケーションにおいて大切であるといえる。では,この「相手意識」が芽生えるのはいつ頃からなのか。 ピアジェの認知理論によると,前操作期と呼ばれる2歳から7歳の子どもたちは,自己中心的な特徴が見られる発達段階にある。そして,具体的(下線は筆者による)
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