001総教CR30430R2研究論文(木村)
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第1節 汎用性の実感と思考の習熟のために (1)教科横断的な取組と思考ツール 領域固有のものである知性や学習を転移させるには,「領域固有のものではない」ことを児童に実感させる必要があり,そのために教科横断的にプログラミング教育を実践することを既に述べた。 プログラミング的思考は,様々な場面の問題解 図1-2 本研究の構想 第2章 問題解決能力育成の方策 10 る。例えば総合的な学習の時間であれば,その特性から問題解決の方向性を考える力を発揮しやすいはずである。教科横断的に取り組むことの利点を最大限に生かし,あらゆる教科の単元を選択肢に入れながら,適切な単元を設定することが必要だと考えている。 二つ目は,振り返りの充実である。先述したように(p.4),メタ認知させ活用を図ると転移が生じやすくなるからである。 メタ認知には,考えている最中にその考え方自体を認知するオンライン・メタ認知と,どう考えたかを後から振り返って認知するオフライン・メタ認知がある。思考ツールなどを活用しての図式化はオンライン・メタ認知だけでなく,後から自分の考え方を振り返るオフライン・メタ認知にも役立つ。自分の考えが表れた図を見て,「こう考えたことでうまく問題解決が図れた」「こういう考え方ではうまくいかなかった」などと考えることは,プログラミング的思考がどういう方略なのか,どんな場面で有効なのかをより実感させることにつながるであろう。こういったメタ認知を促す機会が増えるよう,どのように考えればよいのかということをめあてとしてもたせたり,振り返りの時間を活用したりする。 以上が,1年次の課題を克服するための本研究の概要である。図式化したものを以下に示す。 決過程に現れる。児童が無意識に発揮した思考を,思考ツールなどを用いて図式化したり言語化したりすることで,児童が意識する。児童は,その自分の思考を振り返ることで,どういう思考なのか理解を深めたり,汎用性や有効性を実感したりする。それらの体験によって,問題解決過程に応じてプログラミング的思考を含む思考スキルを自由に引き出し,使うようになるのではないだろうか。さらに,実際に問題解決したことで,問題解決へ小学校 プログラミング教育 6 (1)内閣府『Society5.0』https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html 2020.5.12 (2)文部科学省『小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論のとりまとめ)』2016.6 p.2 (3)前掲(2) p.5 (4)前掲(2) p.8 (5)前掲(2) p.6 (6)同上 (7)前掲(2) p.5 (8)前掲(2) p.8 (9) 拙著「プログラミング的思考を育む,授業デザインの在り方―思考の可視化・意識化することを通して―」『研究紀要―伝統と文化を受け継ぎ,次代と自らの未来を創造する子どもを育てるために』2020.3 pp.3-6 (10)京都市教育委員会指導部学校指導課『京都市プログラミング教育スタンダード』2020.3 p.3 (11)田村学,黒上晴夫『考えるってこういうことか!「思考ツール」の授業』小学館 2013.8 p.20 (12)佐藤佐敏「思考スキルが転移する要件―文学作品を解釈する思考スキルの成果と限界―」『全国大学国語教育学会発表要旨集』2008.5 pp.207-210 (13)国立教育政策研究所『資質・能力 理論編』東洋館出版社 2016.1 p.38 (14)言語化と図式化による思考の意識化は,メタ認知的活動にプログラミング的思考を組み込むために必要なプロセスである。詳しくは1年次の研究を参照されたい。拙著「プログラミング的思考を育む,授業デザインの在り方―思考の可視化・意識化することを通して―」『研究紀要―伝統と文化を受け継ぎ,次代と自らの未来を創造する子どもを育てるために』2020.3 pp.9-10 (15)前掲(14) pp.20-22 (16)奈須正裕『「資質・能力」と学びのメカニズム』東洋館出版社 2017 p.63 の自信を深めるであろう。そのことが,児童の問題解決能力の向上につながると考える。

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