チャートに示す活動を行った。 図1-1 筆算の手順を表すステップチャート 児童のプログラミング的思考を図式化することで可視化し,どのような思考かをとらえやすいようにしたのである。 また,教員が発問や指示をする際も「手順を考えて」(アルゴリズム的思考),「新しく増えた部分は何かな」(分解)のように,どう考えるかが明示的になるように言語化した。 さらに,そういった思考をすることで何が良かったのかを児童に振り返らせたり,教員がほめて価値付けたりすることで,児童が有効性を実感できるように試みた。 これらの取組の成果として,児童がプログラミング的思考の有効性を実感できたり,プログラミング的思考を意識できるようになったりしたことが挙げられる(15)。 しかし,意識化と有効性の実感はされたのだが,転移に至った例は少なかった。具体的にいえば,他教科等での学習活動でそういった思考を自主的に働かせていると思われる児童は,少数しか観察されなかったのである。 奈須によると,こういった転移を生じにくくさせる要因は,「人間の知性や学習というのは,それくらい領域固有のものであり,文脈や状況に強く依存している」(16)からであるという。その上で,教わった方略を児童が問題解決に自発的に活用するには,それがいったいどういう方略なのか,どんな場面で有効なのかを実感させ明確にした上で習熟させる,明示的な教え方が必要であるとされている。 (2)1年次の課題克服に向けて 1年次の課題克服のために,大きく分けて二つ小学校 プログラミング教育 5 の手だてが考えられる。一つ目は教科横断的な取組である。 奈須の言葉に依拠するならば,転移させるにはまずは領域を感じさせないための工夫,言い換えるとプログラミング的思考の汎用性を感じさせる工夫が必要だということになる。 1年次はプログラミング教育を算数科の授業においてのみ行った。それゆえ,児童は算数科において発揮すべき思考だととらえたり,汎用的なものだととらえることができなかったりした可能性がある。プログラミング的思考は様々な教科,場面で発揮することができる思考である。算数科だけでなく他の場面でも児童がプログラミング的思考を発揮し,図式化や言語化によってそのことを意識したとき,汎用性のある思考だと認識し,転移につながるのではないだろうか。 教科横断的に取り組むことのメリットは他にもある。プログラミング的思考をスキルとして習熟させるには,型として繰り返し使うことが必要である。思考ツールはその手段として有効なので本研究においても継続して活用するが,同時に繰り返し使う場面が必要である。教科横断的な取組とすることは,プログラミング的思考を働かせる場面が増えることにつながり,習熟のための手だてとなるはずである。 しかし,一点注意すべき点がある。それは,問題解決の方向性を考える学習活動の充実である。1年次の実践においては,プログラミング的思考がいったいどういう方略なのか,どんな場面で有効なのかを実感させて明確にすることについては,一見できているように感じられる。しかし,どんな場面で有効かについては,本来のプログラミング的思考の有効性と比べると部分限定的なものとして印象付けた可能性がある。 プログラミング的思考を育むことによって高まる問題解決能力は, ①問題解決の方向性を考える力 ②問題解決の手順を最適化する力 であると既に述べた。だが,先に挙げた筆算の例にあるように,1年次の実践は手順を最適化する活動が主であった。これでは,①も②も含む問題解決能力を支える思考としてのプログラミング的思考が意識されたとは言い難い。では,どの単元においても①の力を意識して発揮させればいいのかというとそうではない。単元の学習内容によって,①の力を発揮しやすい,②の力を発揮しやすい,①も②も発揮しやすいという向き不向きがあ9
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