このような概念であるから,広く問題解決に役立つ思考として世界中で注目されているようである。 整理すると,プログラミング的思考を育むことによって高まる問題解決能力は, ①問題解決の方向性を考える力 ②問題解決の手順を最適化する力 であるということになる。 (4)プログラミング的思考の要素 プログラミング的思考の定義は,「コンピュテーショナル・シンキング」(以下CT)の考え方を踏まえつつ,プログラミングと論理的思考との関係を整理しながら提唱されたものである(8)。 そこでまず1年次の研究においては,WingによるCTの概念や磯部らによる解説を参考にしながら,概観を試みた(9)。要点を以下に示す。 ・構築された問題解決の手順を人に任せるか コンピュータに任せるかは選択できるオプ ションに過ぎないということ ・CTは,問題解決のための思考であり,問題を明確にするという問題解決過程の初期から発揮される思考であること さらに,CTの概念をもとにプログラミング教育を教科化して実施しているイギリスの例や,ベネッセによるプログラミング的思考の評価規準を参考にプログラミング的思考の理解を試み,プログラミング的思考の要素を以下の5要素とした。 表1-1 本研究におけるプログラミング的思考の要素 (3)思考を明確にする 第2節 転移を促すために (1)1年次の研究より 本研究は小学校におけるプログラミング教育を軸としているので,小学校での実践を例にプログラミング的思考の具体を説明する。 小学校 プログラミング教育 3 総合的な学習の時間に,環境をテーマとした単元としてごみを減らすための取組をすることがある。しかし一口にごみといっても,その多さの原因は様々である。 ①分解 児童はまず,食品ロス,プラスチック,産業廃棄物などのキーワードを挙げて問題の概観を試みた。そして,個々のキーワードについてその実態を詳しく調べた。すると,食品ロスが増える背景には,賞味期限を本来の期限より厳しく設定していることがあると気付いた。このように問題をどんな要素が構成しているのか,細分化してとらえていく思考が分解である。 ②抽象化 次いで,収集した情報を分析する。賞味期限の問題にしろ,プラスチックや産業廃棄物の問題にしろ,使い道はあるのに捨てていることが問題の根本であると児童は感じた。共通点を考えたことで問題解決に必要な本質的な部分を見いだすことができた。これが抽象化である。 見いだした要素をもとに,使い道はあるのに捨ててしまう姿勢を改めるにはどうすればよいのかを児童は考え,賞味期限の過ぎたものや使い終わったビニール袋,家電製品の生かし方について啓発プレゼンを作ろうと考えた。抽象化することで,問題解決の方向性が見えてくるのである。 啓発プレゼンを作る活動では,どんな内容をどの順序で伝えるかを考えなくてはならない。これは問題解決の手順を最適化する活動である。どんな内容が必要か,構成する部分(要素)を考えることは分解に当たる。その分解された要素を全て伝えようとするとスライドが膨大な量になり,聞き手も疲れてしまうと予想できるから,必要な要素は絞り込まなければならない。これも抽象化である。 抽象化は,問題解決の方向性を考える場面にも,問題解決の手順を最適化する場面にも必要な思考である。 ③アルゴリズム的思考 啓発プレゼンの内容のように,必要だと判断された要素を順序立てて,他者にわかるような形で示すのがアルゴリズム的思考である。 ④一般化 プレゼンの構成には,一定の型がある。それに児童が気付き,別の問題場面にその構成を応用した。パターンを見付けて,別の場合に利用する一般化の思考である。 7
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