001総教CR30430R2研究論文(木村)
3/26

小さい頃に積み木やブロックを使って遊んだ人は多いことと思う。私も,家を作ったり,ロボットや基地を作ったり,想像力の赴くままに一心不乱に好きなものを創造したことを覚えている。 作り出すことは楽しい。作るプロセスにおいて「ああでもない,こうでもない」と試行錯誤することが楽しい。その上で,完成したことに達成感を感じるからであろう。 教員になってからは,日々教材作りを行った。この場合の教材作りとは,既に用意してあるデータを児童数分印刷したり,掲示用に拡大したりすることではない。教材作りとは,単元で児童に身に付けたい力を明確にし,クラスの児童を思い浮かべながらどのような支援をすればよいか考え,ワークシートの構成を考えたり,児童に見せる資料を精選したり,提示する順番を考えたりすること。すなわち児童に何らかの力を育むという問題を解決するために,試行錯誤し最適な解を求める活動である。 大変ではあるのだが,教員として楽しい時間の一つでもあったと思う。何人かの仲間とアイデアを出し合うような時間は特にである。精いっぱい考えて作った教材を使った授業を行い,児童が真剣な表情で学習し,思考がだんだん深まっていく様を見たとき,達成感を得たことを覚えている。そしてその日の放課後,また新しい教材作りに向かうのである。 多くの場合,問題解決とは何かを作り出すことである。商品を作る,イベントを作る,話し合いの流れを作る。そしてそれは,楽しく達成感のあるものである。 そのような感覚を児童が身に付けてくれたら,その将来にどんな困難が待ち受けていようと,彼らは自分たちの力で乗り越えてくれるであろう。 第1節 プログラミング教育の必要性 (1)求められた社会背景 第4次産業革命とも言われるような,人工知能が様々な判断を行ったり,身近な物の働きがインはじめに 第1章 問題解決能力の育成を目指して 小学校 プログラミング教育 1 ターネット経由で最適化されたりする時代は既に到来しつつある。このような技術の進歩を生かして,人がSDGsのような様々な課題に新たな解決策を見いだし,新たな価値を創造していくことが期待されている。 日本においては「サイバー空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムにより,経済発展と社会的課題の解決を両立する,人間中心の社会(Society)」(1)として,Society5.0というビジョンが内閣府によって示された。そこでは新たな価値として,例えば天気や交通渋滞状況,宿泊先やおすすめのお店といった様々な情報を分析し,最適なルートを判断する人工知能が紹介されている。人工知能やインタ―ネットなどの情報技術の進歩により,我々の社会や人生がよりよくなることが期待されているのである。 一方で,「今後10年~20年程度で,半数近くの職業が自動化される可能性が高い」「子どもたちの65%は,将来,今は存在していない職業に就く」といった未来予測から,人工知能の進化により人間が活躍できる職業がなくなるのではないかといった不安の声もある(2)。定められた手続きを効率的にこなしていくことは,人工知能が人間以上に得意とすることである。人工知能が発展すれば,様々な作業を自動で行うことができるようになり,当然その作業には人の手を必要としなくなるだろう。例えば,レジ台に購入したい商品を置くだけで代金が表示される無人レジは既に普及しており,そこに店員の姿はない。また店内の商品を手に取って店を出るだけで,入店前に登録した電子マネーやクレジットから自動的に支払いが行われる無人コンビニも誕生した。 これからの子どもたちには,人に言われたとおりに,あるいはマニュアルに定められたとおりに,手続きを効率的にこなすことにとどまらない力が必要になったことは間違いないであろう。新たな価値を生み出すような感性やアイデアを実現する力をもつ人材が必要とされている。 (2)育みたい資質・能力 このような社会の情勢を受けて誕生したのがプログラミング教育である。中央教育審議会での検討と同時に,有識者会議において議論が行われた。この有識者会議の名称を「小学校段階における論理的思考力や創造性,問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」という。会議名称からもわかるとおり,目指されているの5

元のページ  ../index.html#3

このブックを見る