この実践によって、児童は自分に合ったペースで学習を進めることができるようになった。わからないことがあれば、ヒントカードや学習した考え方などを蓄積し保存しているGIGA端末上のファイルデータ「考え方ボックス」を使って考えたり、友だちや指導者に教えてもらったりするなど、様々な学習方法で解を導き出すことができたのである(8)。 実践後の児童への聞き取りやアンケートによると、多くの児童が、考えを図示したり、人に説明したりできるようになったと答えた。柔軟な学習時間を設定でき、一人一人に合った学習方法を自分で選択・決定できる「指導の個別化」によって、児童の学習意欲が高まり、算数科で培うべき「思考力、判断力、表現力等」の力を伸ばすことができたといえるだろう。 ○中学校数学科 学級には、問題を解決するときにどのように考えればよいか、これまでに学んだ性質や公式の中からどれを使って解き進めればよいかがわからずに思考が滞る生徒がいる。また、自力解決ができている生徒とそうでない生徒がいるために、考えを交流する場を設けても受け身になる生徒が生じ、多様な考えを知ることにより理解を深める活動が十分にできているとはいえない実態があった。そこで、中学校の数学科では「思考過程の見える化」を取り入れた授業を実践した。 問題の解き方を考えるときに教科書や考え方ボックスなど、学習道具を自己選択できるように指導の個別化を行い、GIGA端末を利用して考えを共有し共通点や相違点を手がかりに図形の性質や関数の活用方法を吟味するグループ活動を取り入れた。そして、数学科で身に付けるべき「思考力、判断力、表現力等」を育むために、どのように考えたのかを表すときに、言葉に加えて式、図、表、グラフなど数学的な表現を必ず用いることにした。このように試行錯誤して考えたり、思考を深めたり広げたりして学習過程を数学的に表現することを「思考過程の見える化」として研究を進めた(9)。生徒が教科書や考え方ボックスを自分の必要観にもとづいて使えるようにすることで、思考を深めようと主体的に取り組み、様々な方法で解を求めることにつながった。また、考え方を伝え合い比較して、「協働的な学び」となる授業を進めることで、「自力で問題が解けるようになった」「他者に説明ができるようになった」と実感する生徒が増えた。 ○両研究における成果 このように、子ども一人一人が学習方法を自己選択・決定し、自分に合ったペースで学び進めることのできる「個別最適な学び」や、どのように考えたのか、なぜその解になるのかといった考えを友だちと説明し合う「協働的な学び」によって、算数科や数学科で育む「思考力、判断力、表現力等」の資質・能力を高めることができたのである。今まで問題が解けなかったとき自分の椅子に座り続けていた子どもが、場所に縛られることなく友だちに相談に行ったり、GIGA端末を使って過去の学びを振り返ったりするなど、課題を解決する「学び方」も同時に身に付けることができたと考えている。 第3節 研究の方向性 学びとは、指導者によって強いられる受け身的なものではなく、子どもたちが知りたい、わかりたいといった自らの願いを原動力に、能動的に取り組んでいくものだと考える。よく目を凝らしてみると自分の周りには疑問に思うことや興味をひかれるものがあふれ、友だちと話せば自分では思いつかなかった考えに気付かされる。その気付きによって、なぜだろうともう一度思考をめぐらせ、こうすればいいのではないかと発想豊かに仲間とともに学びを深めていく。そういった学ぶこと自体のおもしろさに意味を見いだし、仲間と共に自立的に学び進める子どもに育ってほしい。それが、本研究の目指す子ども像である。 本研究では、算数科・数学科において、子どもたちが自立的に協働的に学び進めることのできる「個別最適な学び」と「協働的な学び」となる授業の在り方について研究を進めていく。昨年度は、「全体での問題発見・解決プロセス」に焦点をあて、「思考力、判断力、表現力等」の力を高めることができた。小・中学校 教科指導(算数科・数学科) 4 38
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