小・中学校 教科指導(算数科・数学科) 2 36 るだろう。そういった複数の条件の中で判断していくには、時間当たりの運賃(1あたり量)や効率のよい回り方(順序よく整理する)など、算数で身に付けるべき力を習得している必要がある。また、学習課題を解決するために、本やインターネットなど、どのような学習道具を使い、どのように解決すればよいのかといった学び方を学んでいなければ、「学習の個性化」は難しいだろう。「学習の個性化」の実現のためには、「指導の個別化」によって身に付けるべき力を習得し、様々な学習方法の中からどのように学習を進めることが効果的であるのかといった「学び方」を学んでいくことが大切である。 つまり、「学習の個性化」を図る授業を行うには、「指導の個別化」の際に提供した学習活動や学習方法等を選択・決定する主体を指導者から子どもへ段階的に委ねていかなければならないのである。そうすることで、子どもたちは次第に自分に適した学び方を身に付けることができると考える。 (3)「協働的な学び」の実現のために 子どもたちの資質・能力の育成には、授業の中で「個別最適な学び」の成果を「協働的な学び」に生かし、さらにその成果を「個別最適な学び」に還元するなど、「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実していくことが大切であるとされている(3)。例えば、ある学習課題に対して、子どもたちは自身にとって最適な学習方法等を選択しながら学び進め、自分なりの答えや結論を導き出すことができたとする。そして答えや結論、考え方などを他者と交流することで、自分にはなかった新たな視点を獲得したり、お互いに考えを深めたりしていく。そしてまた、獲得した視点や深まった考えを次の学習で生かしていく。このように、「個別最適な学び」と「協働的な学び」が相互にその質を高め合う関係となる授業設計が求められている。 「協働的な学び」においても大切にしたいことは、主体は“子ども”であるということである。そもそも“学び”とは他者が一方的に与えることができるものではない。例えば、指導者が“協働”という名のもと、ペアやグループで考えを交流する時間を設定したとする。しかし、自分の考えを一方的に話すだけであったり、自分の考えをもたずに相手の考えに同調するだけであったりしては「協働的な学び」とはいえないだろう。友だちの考えに触れたとき、「新しいことに気付くことができてよかった」「なるほど、だからこの答えになるのか」と、他者との関わりの中で子ども自身が学ぶことができたと実感したときに、初めて「協働的な学び」となる。つまり「協働的な学び」は、ペアやグループといった形態を整え時間を与えるだけで生み出されるものではなく、子ども自身が他者と学び合う意義を見いだしたときに成立するものである。このため指導者は、日々の授業の中で子ども一人一人の考えを明示的に尊重することによって、子どもが自分たちの考えに価値があると認識することや、他者と学びを深めるよさを実感できるようにしていくことが大切である。この積み重ねによって、子どもたちは「協働的な学び」の価値を見いだすことができるようになり、主体的に他者の考えを参考にしようとしたり、友だちと話し合おうとしたりするのである。本研究では「個別最適な学び」となる学習を行う中で、他者と学ぶよさを実感し、自分の考えをもって互いに学びを深めていくことを「協働的な学び」として捉えることとする。 第2節 算数科・数学科における「個別最適な学び」と「協働的な学び」から見えてきたもの (1)算数・数学の学習過程で求められていること 本研究では、算数科・数学科において子ども一人一人の資質・能力を高めることを目指し、「個別最適な学び」と「協働的な学び」となる授業の在り方について研究を進めてきた。教科等で育む力は、教科内のみで発揮される力にとどまらず、実社会の様々な場面で活用できる汎用的な能力にまで育てていくことが求められている。そのためには、各教科等で「指導の個別化」によって身に付けるべき力を育み、学習したことを深め広げる「学習の個性化」を図っていくことが大切である。 小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領には、算数・数学の学習過程のイメージが次ページ図1-2のように整理されている(4)(5)。算数や数学の学習は、「数学的に表現した問題」から「結果」を導く問題解決のプロセスのみで終わるものではない。例えば、平行四辺形の面積の求め方を学習した後、養われた数学的な見方・考え方を働かせ、五角形や六角形も三角形に分割すれば求められること(数学の事象)や、近くにある公園はどれぐらいの広さなのだろうかと考えること(日常生活や社会の事象)とい
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