616_R4「個別最適な学び」と「協働的な学び」最終稿【椙村・寺井】
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小・中学校 教科指導(算数科・数学科) 33 といった、今まで十分に伸ばしきれなかった子どもたちへの関わりに手ごたえを感じたという意見も研究協力員から聞くことができた。 一方、課題も見られた。算数科、数学科でそれぞれ聞き取った内容を整理し、改善案とともに図4-9に示す。子どもに学習方法を自己選択・決定できる授業デザインだけでなく、図4-9①~③のように、指導者が学習方法を指定したり、全体の場で一人一人の意見を価値付けたりしていく、一般的な授業デザインでの学習も大切だということがわかる。小学1年生のときから、指導者が図式化することや、考えを説明することなどを丁寧に指導した上で成り立つ実践だといえるだろう。 図4-9④の課題については、研究協力員の聞き取りに加え、筆者がそれぞれ実践を記録してきた中で、小学校と中学校で要因が異なることが考えられる。小学校では、友だちと一緒に学習することが楽しいからという理由が主であった。一方中学校では、様々な理由がある中で、自分にはわからないという経験を繰り返してきたことによって自力では理解できないと初めから諦めていることが主な理由ではないかと考えられる。算数・数学は積み上げ教科と言われる。算数のかけ算やわり算が理解できていなければ、数学の因数分解を理解することが難しいように、一度つまずいてしてしまうとその後の学習はわからなくなるのは想像に難くない。中学校の子どもたちに限ったことではないが、今までの学習経験の中でわからなかったことや理解できなかったことが積み重なり、初めから自分で考えることを諦めてしまっていると想像される。だからこそ、「個別最適な学び」や「協働的な学び」に可能性を感じるのである。研究実践の成果として挙げたように、わからなければ教科書を読んだり、友だちに教えてもらったり、わかるまで練習問題に取り組んだりするなど、自分が適した学び方で学ぶことで、教科としての力を高めたり、主体的に課題解決する力を身に付けたりできるのである。小学校算数で「個別最適な学び」や「協働的な学び」となる授業によって確実に力を身に付けることができれば、中学校数学の学習では更に深まりのあるものになっていくと考える。 さて、図4-9⑤の課題であるが、学習課題の作成に時間や労力を費やしたことは否めない。しかし、作成することによって、指導者の意識や子どもに対する発言内容が変わったという声もあった。研究協力員は、理科で温度を計る際に、「概数で表せば水の温度は何度になる?」と、算数の用語を使うようになったと答えていた。オーセンティックな学習課題を作成することで、指導者は他教科とのつながりを考えるようになったのである。このように教科横断的な視点をもって授業を組み立てていくことで、子どもも算数科・数学科以外の授業の場面で数学的な見方・考え方が生かせることに気付いていくのである。中学校数学科ではオーセンティックな学習課題を作成することが難しい学習内容もあるが、このような・今までヒントカードを準備していても、それではわからない子どももいた。でも、子どもが一番理解できる解決方法をとれるので、こちらが救いきれなかった子どもたちも、学習を深めることができるようになった。 ・塾に行っていて既に理解しているような、学力の高い子どもも、課題が選択できることによって学習意欲をもって学びを深めることができていた。 ・自分たちで学習を進めることができるので、より支援が必要な子どもに支援できる。 図4-9 アンケート結果⑨ 【課題と改善案】 ①授業中は学習が理解できるようになってきていると思うが、定着しているかは別。→反復練習をする時間も設ける。 ②大勢の前で説明できる力も必要。→ 従来の授業デザインも大切にし、全体の場で発表する機会を設ける。 ③正答していても、なぜそうなるのか理解できていない場合があった。→ 全体で今日の学びを確かめる場を設ける。 ④学び(方を選択するねらい)を理解せず、始めから友だちと一緒に学習を進める子どもがいる。 →小学校段階から、「学んだこと」と「学び方」を振り返る場を設け、学び方を選択するねらいを理解できるようにしていく。 ⑤オーセンティックな学習課題を作るのが大変(指導者の豊富な知識や経験が必要、教科領域や指導内容的に難しいものもある) →段階的に、学習したことはどんなものに生かされているのか調べたり、数値を変えても同じ考え方で解決できるのかを考えて自分で問題を作っていったりするなど、探究的に課題発見・解決できる活動を取り入れていく。 【指導者として必要な力】 ・個に応じた適切な指導力(そのために必要な要素:教材理解、児童・生徒理解、学習意欲を高める声掛けの仕方など) ・他者に助けを求められる人間関係、互いの考えを認め合える学習集団・学級づくり ・指導者の豊かな見方・考え方(子どもが学習したことが生活や社会にどのようにつながっていくかなど) 67

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