る一方で、「多忙で時間がない」「ニーズに応じたテーマや方法、場の設定が必要」「内容をよく知らない」というような課題も挙げている。これらのことから、約10年前は、若手教職員の育成に組織的に取り組んでいる学校はまだ多くなかったと思われる。 本市教育委員会では、平成27年3月に「京都市OJT実践ガイドライン(試案)」を、平成29年5月に「京 都市OJT実践ガイドライン(改訂版)」を発行し、各学校園に「意図的・計画的・継続的」なOJTを進めるよう示している。このガイドラインでは、「京都市で進めるOJT」を次のように定義している。 「教職員同士が協働する機会や場面(学年会、教科会、分掌業務など)をはじめ校内研究・研修、若手・中堅教員実践道場など、学校教育目標の実現に向けた日々の教育活動を通した管理職・同僚教職員間での『学び合い高め合う』取組」(11) ここでも、先輩から後輩への知識や技能の伝承だけでなく、学校現場において教職員同士が互いに学び合い高め合う全ての取組をOJTと表しており、学校組織として全教職員が協働的に進めていくことの重要性がうかがえる。しかし、本市のOJTガイドラインや具体的な取組等が学校現場に浸透し、活用されているとはあまり感じられない。その背景には、ガイドラインの周知の仕方や、現場での受け止め方による認識の違いもあると思うが、各学校現場において必要性を感じつつも、OJTに取り組む時間的余裕がなかったり、進め方がわからなかったり、職場環境や教職員体制の整備ができていなかったりしたことなどが大きく関係するのではないだろうか。 筆者が教師になったばかりの頃は、経験年数に応じてバランスの取れた学年集団に属し、先輩から多くのことを教わってきた。近年は自分自身が学年主任になることが多かったが、常に学年の教員で相談しながら日々の授業や取組を進めることを心がけていた。これもOJTの一つであり、現在も様々な場で同様のことは行われているであろう。しかし、これらの多くは必要に応じて個人の意思で行っているものであり、学校組織として意図的・計画的・継続的に行っている取組ではない。その内容やタイミングも個人に委ねられるため、場合によっては、ほとんど指導を受けられずに悩んでいる若手教職員もいるかもしれない。また、校内研究や若手教職員を対象とした校内での研修会(以下、若手研修会とする)に取り組んでいる学校は多いが、対象外の教職員は内容を把握しておらず、若手の育成をねらった取組を自分事として捉えられていないと感じたことがある。筆者が過去に参加した全市や支部の研修会においても、研究授業や研修会等を組織的、協働的に進めることの難しさが話題に上ることが多かった。このような経験からも、教職員のOJTに対する意識や関わり方は、学校や個人によって様々であると感じる。 これらのことから、OJTの意義や進め方を理解し、意図的・計画的・継続的に取り組んでいる教職員や組織的に取り組んでいる学校はまだ多くはなく、学校によってOJTの捉え方や取り組み方に大きな差があると捉えなければならない。 (2)ミドルリーダーを核とした学校組織づくり 本市では、社会の変化に応じた取組を進めていくには、「教職員一人一人が社会や学校現場の変化を前向きに捉え、自身の現状を『指標』*2に照らして振り返りながら計画的な研修等を行い、より人間性や創造性、専門性を高めていくことが重要である」としている(12)。同時に、「『指標』等の活用を通してOJTを有効に機能させ、若手・中堅教職員の組織的な育成をはじめ、すべての教職員の資質・指導力と学校の組織力向上を図ることが必要不可欠である」とし、組織的なOJTの充実を求めている(13)。 全国の傾向と同様に、本市でも、10年ほど前から管理職をはじめ経験豊かな教職員の大量退職と若手教職員の大量採用に伴う急激な世代交代が進み、経験豊かな教職員の優れた教育実践等の次代への伝承が課題となってきた。図1-3は、本市の教員年齢構成を示したものである(14)。これを表1-1(p.2)で示した本市の教職キャリアステージと合わせてみると、必ずしも年齢と教職キャリアステージが一致するとは限らないが、10年前の平成23年度と比べて令和3年度は、ベテラン教職員が減少し、中堅教職員の人数が増加している。全国の公立学校における教員の年齢構成と比較しても、本市は中堅教職員の割合が高い傾向にある(15)。しかし、10年ほど前から課題となっていた優れた教育実践等の次代への伝承が、この間校内で確実に行われてきたのか、あるいは中堅教職員にミドルリーダーとして校内の核となり学校の組織力向上を図っていく力が十分備わっているのかについては不確かである。 小・中 日常的なOJT 3 109
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