617_R4「読み解く力」最終稿【中村寿・中村洋】
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6 表題とその解答欄 図3‐19 読み解きチャレンジの問い 1~5 だ後、指導者が配付した予習シート(家庭学習用のワークシート)を仕上げ、授業に臨んでいる。図3-18の読み解きチャレンジの二つの問いの正答率はそれぞれ8割前後であり、概ね正答を選択できていたといえる。しかし、授業において指導者の「どんな方法によって溶質を取り出せるか」という問いに対して生徒は、条件の一つである「水溶液の温度を下げる」方法を答えることができていた。これは、これまでの学習でグラフの曲線に注目してきたことなどから、多くの生徒が気付けたと考えられる。一方、もう一つの「水(溶媒)の量を減らす」ことには思いが至らなかったようである。このことは、「一定量の水」や、グラフの縦軸を「100gの水に溶ける質量」と説明する文が、抽象的な表現によるものであることが原因だと考えられる。グラフを扱った授業の際に、これらの文に関する問いも出題してはいたが、授業の初めに問いに取り組んだだけでは、抽象的な表現と具体的な事象とを結び付けることが難しいようである。今後も抽象的な表現と具体的な事象と結びつけるような出題をするなどして、継続的に扱う必要があると考えている。 ところで、図3-18に示した二問は語句の違いだけで、問いの内容は全く同じである。上の問いは、「水」「もの」といった小学校の教科書に出てくる語句で、下の問いは、中学校入学後に学習した「溶質」「溶媒」「溶液」という語句で作問したものである。解答された選択肢の割合を比べると、複数回答方式の中で正答を選択した割合はほとんど差がないにもかかわらず、誤答をも選択した割合は多くなるという結果となった。特に「溶質」という語句が関わる選択肢において、正答なのに選択しない、誤答なのに選択する傾向があることから、「溶質」という新出の用語の理解に特に問題があると考えることができる。中学校の学習では、当然「溶質」という語句を用いて授業が進められ、ペーパーテストで出題もされる。この2問の比較から、新出の用語を含む問いにおいて、その語句の意味を正確に理解させておかなければ、理科で身に付けさせたい資質・能力について評価することも十分にできないといえるのではないだろうか。 本取組は習慣化すれば、指導者からの逐一の指示を必要とせず、生徒が自ら教科書を使用する学習活動である。家庭で解答するにあたり、生徒からは煩雑さや不便さなどの意見が特になかったことから、授業時間外、つまり家庭学習の一環として取り組むことについては差し支えなさそうである。むしろ、取組によって授業時間を圧迫することなく家庭学習を促すことができ、学習内容を予め確認し、自身の課題を自覚できる点で望ましい取り組みだと言っていいだろう。その一方で、授業中に実施するよりも取組者数が減ってしまっていたことが課題といえるだろう。 ④ 単元3 1章 光の性質(A校) 単元3(物理分野)からの読み解きチャレンジは、図3-19のような組立とし、教科書の文章を正確に読み取ることを促すにとどまらず、知識を活用して具体的な事象を説明することにもつながるように工夫した。 クイズ作成ソフトの「表題」部分に、身近な事象に関する問いを提示する。そして、続く五問程度を教科書から知識や概念を獲得するものとすることはこれまでと同様であるが、得たことを関連付けて考え、表題に示した問いについての答えに導けるよう工夫したものである。これにより、知識を活用して具体的な事象を説明できるようになるとともに、読み解きチャレンジに取り組む動機も高めることができると思われる。 この形式での出題は、A校、B校ともに、単元3「身近な物理現象」で行った。なお、表題部分には解答できないため、考えを入力できるように6問目に記述式の解答欄を用意した。記述式の解答は自動採点できないので、生徒が解答を送信すると、1~5問目だけが採点され返却されるが、記述欄のデータは蓄積され、直後に閲覧もしくは後に形成的評価をすることができる。また、生徒は授業を通して正しく理解し、まとめの段階でもう一度記入させることにより、指導者は自らの授業評価に位置付けることもできる取組である。 小・中 読み解く力 19 【表題】○○はなぜか。 (身近な事象に関する問い) ↓課題を把握し、解く これまでと同様の問い ・つまずきが想定される文 ・学習の要点 など ↓活かして解答する 91

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