615_R4「自己調整」最終稿【久保田】
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14 解決するための効果的な認知的方略として理解してはおらず、それぞれの認知的方略の特徴や効果もわからないまま用いていたと考えられる。用いる際も自分で判断するわけではなく、指導者の指示によって用いることが多かった。また、学習課題や目的に応じて選択することができるだけの多様な認知的方略をもつことができていない生徒も多数いるであろう。そのため、六つの認知的方略のそれぞれにどのような特徴があり、活用することでどのような効果があるのかを事前に指導しておく必要がある。その一方で、教示されただけでは生徒が実際に認知的方略を活用することができないままになる可能性があるため、指導者による支援のもとで実践を進めながら活用経験を積んでいくことが必要になるであろう。 そして、指導者は生徒が最初からメタ認知を働かせて、適切な認知的方略を自己選択できると考えてはならない。実践を進めながら経験を積んでいかなければ、生徒が適切な方略を自身の判断で選択することはできないであろう。 (2) 選択した認知的方略の振り返り 自己調整を自覚するために、家庭学習の場面においてはSMSに、各教科等の授業の場面においては振り返りシートに、生徒は自身が選択した認知的方略の振り返りを記述していく(普段から使っているシートに方略を振り返るための欄を付加したものでもよい)。 振り返りで生徒が記述する内容は、認知的方略を選択した理由(意図)と活用した効果の二つである。認知的方略を選択した理由を記述することで「こういう学習課題の時はこの方略を使おう」「前に使って上手くいったから、また同じ方略を使おう」といった、学習の見通しを立てる際に働かせたメタ認知や高まった動機づけが認知的方略の選択に作用している様子を生徒自身が客観視することができる。指導者も生徒が行った自己調整の意思的な側面を見取ることができると考えられる。 また、活用した効果を記述することで、生徒は自身が選択した認知的方略の有効性を実感することができ、動機づけを保った状態で次の学習に向かうことが期待できる。「あの時の、あの方略がこの学習課題でも使えそう」と、自己調整をしながら認知的方略を汎用的に活用していくことができると考えられる。ただし、認知的方略の有効性を生徒が具体的に記述するためには、選択した認知的方略とその認知的方略を活用したことで得られた学習の成果との因果関係を生徒自身が見つけ、分析しなければならない。この点について、単なる手応えといった生徒自身の主観的な判断だけではなく、指導者からの客観的な評価からの分析も必要となるであろう。 家庭学習と各教科等の授業の双方の場面で自己選択した認知的方略の善し悪しを分析し、上手くいかなかったら選び直すといった自己調整の経験を積むことで、生徒は場面や学習課題、目的に応じてより適切な認知的方略を選択して学習を進めていくことができるであろう。同じ失敗を繰り返すことなく、そして、未知の学習課題にも応用できるようになると考えられ、学習の質を高めていくことが期待できる。 第2節 学習履歴と学習方略を共有する 自己調整する力を育成するためには他者からの支援が必要である。この他者からの支援をより効率的かつ効果的に行うために、実践では適宜GIGA端末を活用する。特に家庭学習の場面で活用しているSMSを指導者と共有することと、お勧めの学習方略を生徒同士もしくは指導者と共有することは昨年度に引き続き行っていく。 GIGA端末を活用することで、紙の場合のように紛失することもなく、学習した記録を安全に蓄積していくことができる。また、SMSに指導者との共有を設定することで、指導者は時間や場所を問わず生徒の学習の様子をモニタリングすることができ、生徒に学習のアドバイスを適時送ることができる。これまで以上に、個々の生徒の学習状況を的確に把握することで、より個に応じた指導を行うことができるであろう。生徒にとっては、自分とは異なる視点からのアドバイスによって、自身の学習の進め方を見直したり、学習の動機づけを高めたりすることができるであろう。 GIGA端末を活用し、学習支援ソフトの画面共有やファイル共有機能を利用することで、容易に学習方略を共有することが可能となる。学習方略を生徒同士もしくは指導者と共有することは、限られた学習方略しかもつことができていない生徒には特に有効な活動である。一定の学習方略をもっている生徒にと中学校 学びを自己調整する力 6

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