第1節 自己調整を自覚する (1) 認知的方略の自己選択 第2章 研究主題の達成に向けて 図2-1 体制化方略を活用した例 A 援助要請方略・・・友だちや先生、親などの他者からの援助を受けることで、理解や思考を深める方略 B リハーサル・記憶方略・・・学習内容を覚えるために、くり返し暗唱したり、反復して書いたりする方略 C リソース活用方略・・・図や表などを活用することで、理解や思考を深める方略 D 体制化方略・・・複数の学習内容を分類・整理しながら関係をもつようにまとまりをつくる方略 E 意味理解方略・・・解き方・考え方を確かめながら、学習内容の意味を理解し、思考を深める方略 F 関連づけ方略・・・今までの学習内容や日常生活と関連づけることで、内容理解を深める方略 先行研究によると、学習方略は認知的方略、メタ認知的方略、自己動機づけ方略の三つに分類されており、本年度の研究実践では自分自身の記憶や思考など認知的なプロセスを調整することで効果的な学習を促す認知的方略の自己選択に着目することとした。以下に認知的方略の分類を示す(5)。 認知的方略に着目した理由は、認知的方略を選択することがその後の課題解決の道筋を方向付けることになると考えたからである。例えば、社会科の歴史的分野の授業で江戸幕府の三大改革それぞれの特色をまとめる学習課題があったとしよう。歴史上の人物や政策といった用語が多く、生徒は自身が学習内容の整理ができていないと判断し、上述の認知的方略の中からD:体制化方略を選択することとした。この学習課題を解決するための見通しを生徒が立てる際に、指導者が生徒に特定の認知的方略の活用を指示してしまうと認知的方略を自己調整する機会は生まれない。 学習内容を整理するには様々な方法があるが、生徒は思考ツールのYチャートを用いて視点や項目ごとに分類してみたところ、学習内容が整理され効率的かつ効果的に学習課題の解決に向かうことができた(図2-1)。このように学習課題を解決する際にいずれかの認知的方略を選択することが、思考ツールやグラフを選択することや、学習する順序や道具(教科書やGIGA端末など)、形態(一人学びやペア学習など)を選択することにつながると考えたのである。つまり、認知的方略を選択することが課題解決のスタートになるのである。 なお、生徒が認知的方略を自己選択するためには、いくつかの条件が必要となる。一つ目は指導者が設定する学習課題に工夫が必要なことである。この点については前述したが、計算の練習や反復して暗記したことを解答するだけで解決してしまうような学習課題では、生徒が認知的方略を選択する必要はない。家庭学習においても各教科等の授業においても、生徒が学習課題を解決するための見通しを立てる際に「表を使ってみようかなあ(C:リソース活用方略)」「前に習ったことが使えないかなあ(F:関連づけ方略)」等、複数の認知的方略から選択する必要のある学習課題を用意しておかなければならない。しかし、それが難しい時は、複数の学習課題を用意し「この学習課題の時はこの方略を使う」といったように学習課題に応じて方略を使い分けることができるようにしてもよいであろう。 二つ目は、認知的方略を生徒に教示することである。友だちと協力したりグラフを使って考えたりすることは以前から多くの生徒が用いてきた方法である。しかし、これらの方法をこれまで生徒は学習課題を中学校 学びを自己調整する力 5 (一部、筆者により編集) 13
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