615_R4「自己調整」最終稿【久保田】
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図1-4 学習の記録を残すことの有効性を実感して いる生徒の人数 実践により、多くの生徒が自身の学習をモニタリングしながら、学習する順序や時間、内容や学習方略、学習へのモチベーションを適切に自己調整することができているようであった(図1-3 p.2)。また、学習の記録を残し、それを学習の改善に活用することを生徒が有効だと感じていることが分かった(図1-4)。 指導者やクラスメイトから学習方略を獲得したことが「この新しい方略を試してみよう」や、メタ認知を働かせたことが「不足している部分の学習を補おう」といった動機づけの高まりにつながり、結果的に生徒の学習への主体性が向上したと考えられる。 第2節 2年次の研究の方向性 (1)学習の質を高める 1年次の研究により、生徒は家庭学習の場面で自己調整に必要な動機づけ、学習方略、メタ認知の三つの要素を一定程度備えることができたと考えられる。実践を継続することで、生徒は学習の質をより高めていくことができるであろう。本研究で述べている学習の質の高まりとは、学習の見通しをもち、学習課題や目的に応じて適切な学習方略を選択したり修正(選び直す)したりするといった、自己調整の経験を生かしながら学習を進めることを指す。自己調整によって更に学習の質を高めていくために、本研究では以下の二つの点が必要だと考えている。 一つ目は、学習を自己調整する経験を生徒が数多く積むことである。そのため、2年次の研究では実践の場面を家庭学習だけではなく、各教科等の授業にも広げていく。各教科等の授業で学習を自己調整する力を育成するためには、学習方略を生徒が自分で選択したり修正したりする機会を指導者によって設定する必要がある。具体的には、答えが一つとは限らない探究的な学習課題や課題解決に迫るための考え方を複数選択できるような学習課題を生徒に提示し、学習方略の選択を生徒に委ねるのである。「この方略を使えば解決できそうだ」と、比較することや関連付けることといった課題解決に向かうための考え方や、図やグラフを使うといった学習ツールの活用を生徒は自己選択していくのである。このように、学習の見通しを立てたり学習の進め方を振り返り改善したりする際に自己調整する力が働くのである。学習方略を自己選択したり修正したりすることは生徒がメタ認知を働かせることや学習に向かう動機づけを高めることとも強く結びついている。 二つ目は、自己調整したことの振り返りを充実させることである。自己調整の経験をただ積むだけでは学習の質を高めていくことにはつながらない。積み重ねた経験を生かすためには振り返りを行うことが重要である。1年次の実践でも、SMSを活用して生徒は家庭での学習の進め方を振り返り、自分が選択した学習方略の有効性、テストやレポートなどに表れている結果の原因を分析してきた。それに加えて、2年次の研究では授業での振り返りとして、学習内容の深まりだけではなく、学習方略を選択した意図と活用した効果を生徒が記述していく。振り返りを分析することにより、生徒は自身が行ってきた自己調整を客観視することができ、それまでの自己調整の経験を生かしながら、よりよい学習方略の選択を自覚的に行うことができるであろう。 また、指導者は生徒が授業の中で行った自己調整の意思的な側面を見取ることができると考えられる。自己調整する力は数値化することが難しい内面的な力である。このような非認知能力を見取るためにも、振り返りとして自己調整した意思を生徒が記述していくことは重要である。 学習を自己調整した経験をより多く積み、その経験を振り返ることで、実効性のある学びのアップデートが行われ、生徒はより学習の質を高めていくことできると考えている。 中学校 学びを自己調整する力 3 n=151 11

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