今回の実践でも、生徒が自身の自己調整を自覚するためだけではなく、認知的方略の自己調整によって生徒が学習課題を解決することや学びを深めることができたのかを、指導者が確認するために振り返りを行った。しかし、「何がわかり、何ができるようになったのか」と、「知識及び技能」や「思考力、判断力、表現力等」といった教科の学びと結びつけた内容を生徒が振り返りに記述できるように指導することは、まだまだ不十分であったと感じている。振り返りは生徒の自己調整と「何が分かり、何ができるようになったのか」といった教科の学びとのつながりが、よりはっきりと見取れるものでなくてはならない。 (6) 中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会 『児童生徒の学習評価の在り方について』(報告)平成31年1月21日 p10 (7) 前掲(6)p11 各教科の「主体的に学習に取り組む態度」に係る評価の観点の趣旨に照らして、「知識及び技能」を獲得したり、「思考力、判断力、表現力等」を身に付けたりするために、自らの学習状況を把握し、学習の進め方について試行錯誤するなど自らの学習を自己調整しながら、学ぼうとしているかという意思的な側面を評価することが重要である。 協力員B:自分の学び方を変えていくということが主体的に学習に取り組む態度の評価につながっていくと思う。ただ、(学習課題を解決するために)「この方法(認知的方略)を選んでよかったです」だけだったら、この生徒はたぶん粘り強さというところでいえば、あまり深く考えていないのかなあということが読み取れる。 「これが良いかなと思ってやってみました。やってみたんだけど上手くいきません。で、こっちに変えました。そして、上手くいきました」というふうな変容が感想の中に挙がってくると、この生徒はすごく考えたね(自己調整と粘り強さの二つの側面)ってことが記述からわかるかな。実際にはそこまで書くということは難しいと思うけど、何回か振り返りを書く中でこっち(指導者)が見取れるような形でそれが出てくると、確実にこの生徒は主体的に学ぶ力が上がったなと、見取れるかなと思います。 協力員Bは、学習課題の解決に向けた粘り強さについての記述が振り返りに必要であることを語っていた。本実践では、学習課題の解決に向けて見通しを立て、生徒自身が最適だと思う認知的方略を選択し振り返りを行った。各教科等の授業での振り返りには、生徒が認知的方略を自己選択した理由と活用した感想を記述する欄を設けていた。しかし、自己選択した認知的方略を活用し続けた結果、学習課題を解決できたことや、最初に自己選択した認知的方略では上手くいかず、選び直しながら学習課題を解決できたことといった生徒の学習に対する粘り強さの側面がはっきりと見取れる記述は少なかった。前掲した「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」にも、「知識及び技能」を獲得したり、「思考力、判断力、表現力等」を身に付けたりすることに向けた粘り強い取組を行おうとする側面(7)についての記述があり、学習を自己調整しようとする側面と合わせた二つの側面を評価することが述べられている。 これらの理由から、本実践で行った振り返りをそのまま学習評価に活用することは現時点では難しいと考えられる。しかし、認知的方略の自己選択と振り返りによって、生徒の自己調整する力を育成するというアプローチは、生徒の学習に対する粘り強さと自己調整の二つの側面を見取るための一つの提案となったことだろう。生徒が記述する振り返りの質(認知的方略を自己選択した理由と活用した効果、教科の学びとのつながり、学習に対する粘り強さ)について考察することができたことも大きな成果といえよう。また、本研究により、自己調整のサイクル(①予見の段階、②遂行コントロールの段階、③自己省察の段階)や必要とされる要素(動機づけ、方略、メタ認知)について一定程度、指導者の方々に周知することができたと考えている。今回の研究の成果と課題を踏まえて今後も実践を重ね、学校現場でより広く活用することができる実践へと発展させていきたい。 中学校 学びを自己調整する力 23 31
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