615_R4「自己調整」最終稿【久保田】
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協力員Aは生徒が振り返りに書く内容次第で評価に活用することはできると思うが、まだ学習を自己調整する経験が足りておらず、教科の学びとのつながりを見取ることは難しいと語っていた。「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」には、主体的に学習に取り組む態度の評価の基本的な考え方が以下のように示されている(6)。 30 協力員Aは、SMSを活用することによって、各教科の学習時間や活用した認知的方略の偏りなどを生徒が視覚的に捉えることができ、自らの学習状況をより容易にかつわかりやすく把握することができたことを語っていた。生徒はSMSに蓄積した学習情報をもとに、学習の進め方を自己調整しながら学習に取り組むことができていた。指導者の指示によるのではなく認知的方略を生徒自身が選択することやSMSを指導者と共有することにより、生徒の学習の動機づけが高まり、主体性が高まったといえるであろう。また、生徒の普段の授業での様子やテスト結果といった情報に加えて、指導者は生徒の家庭での学習履歴を分析することで、より的確な学習のアドバイスを生徒に送ることができた。これまで以上に個々の生徒に応じた学習指導を行うことができたといえるであろう。 協力員B:今まで文章で説明することが多かった生徒が「図を使ったほうがわかりやすいな」と図を活用して勉強するようになった。どちらかというと成績C層の生徒たちがテストでも頑張って点数を取ることができるようになっていたと思う。成績A層の生徒は教え合うという言語活動が効率がよいということをつかんだようだった。(~略~)方略の活用傾向を分析してみて面白いなと思ったのが、成績C層の生徒たちも、教えてもらうことばかりではダメだと考えているみたいで、指導によって意味理解を大切にすることが(生徒たちに)浸透しているようだった。 協力員Bは、認知的方略の自己選択と振り返りによって、生徒の学習観が変容し多様な方略を活用するようになったことと、学習時間や内容だけではなく方略という視点からも生徒が自らの学習の進め方を分析するようになったことを語っていた。そして、生徒が記述した認知的方略の振り返りを分析することで、生徒の授業での認知的方略の活用傾向を把握することができ、全体への学習指導だけにとどまらず個別の学習指導にも役立ったことを挙げていた。学習課題を解決することができずにいる生徒に対して、指導者も方略という視点から学習のアドバイスができたことは生徒の学習改善に大きな効果をもたらし、生徒が学習の質を高めていくことにつながったといえよう。また、協力員Bは授業での指導だけではなく、学級通信も利用して自己調整する力の必要性やそれぞれの認知的方略の特徴や効果を実践期間中に何度も生徒に指導していた。これにより本実践への生徒の理解が大いに深まり、学習課題を解決するための効果的な道具として、生徒がいち早く認知的方略を理解し、汎用的に活用することができたと考えられる。 (2)認知的方略の振り返りの活用 認知的方略の振り返りを見取ることにより、生徒の家庭学習の進め方や授業での認知的方略の活用傾向を指導者が分析し、これまで以上に個々の生徒に合った学習指導が可能になることは前項で述べた。本項では、生徒が記述した認知的方略の振り返りを学習評価に活用する可能性について述べることとする。この点について二人の研究協力員に率直な意見を聞いてみた。その内容を以下に示す。 協力員A:援助要請方略を選んだ振り返りが「わからなかったから友だちに聞くことにした」「友だちに教えてもらったらわかった」だと、数学的な評価への振り返りに使うのは難しいかなと思います。これが例えば「図を使ったことで変化がわかりやすくなった」といった内容だと少し数学的になっていて、自分としては評価しやすくなります。生徒たちは考え方として六つの選択肢があることを知って、いま経験して、やってみてこういう結果になった、ってことをつなげている段階なのかなと思います。振り返りで生徒が書く内容だけでなく、まだ経験を積んでいる段階なので、振り返りを評価に使えるようになるのはもうちょっと先になるかなと思います。 (学習)課題の解決に迫るための方法(方略)を生徒が知ったということがけっこう大きかったと思います。やっぱり、今まで無意識に(学習を)やってきていて、「なんかこういう時は点数がよかった」で終わっちゃってたことが、「こういうふうな方法(方略)で点数が上がったし、逆に上がらなかったし」というのが見えてきたので、それが生徒たちにもよかった。 中学校 学びを自己調整する力 22

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