本人が言うように、生徒Pは授業中いつも一人で黙々と学習課題に取り組んでいた。「わからない」といって途中で投げ出すことは筆者が授業を参観している限りでは見たことがない。しかし、学習課題の解決に辿り着くことができないので、そんな様子を見かねた指導者がマンツーマンで支援することがよくあった。学習に対する粘り強さはあるが、自己調整することは上手くできていない。長年、自分の体に染みついてきた学習の進め方を変えていくには、やはり時間がかかる。実践によって、学習観を変え認知的方略を課題解決の有効な道具とするところまで至ることができなかった生徒もいると考えられる。 図4-3 平日の学習時間の変容 図4-4 認知的方略を汎用的に活用していることの実感 28 生徒P:自分はあまり成果が出なかった。テストの点数もそんなに上がらなかったし。 筆者:勉強の仕方で、もっとこうすればよかったと思うことはない? 生徒P:家でも授業でも自分はあまり勉強の仕方(認知的方略)を選ばなかった。とりあえず問題を読んで解こうとした。 それぞれの場面で得た活用経験を、それぞれの場面での認知的方略の自己選択に生かすことができており、自覚して認知的方略を使い分けているといえるであろう。認知的方略の自己選択とそれを振り返ることにより、学習を自己調整する経験を生徒は積むことができ、認知的方略の汎用的な活用が促され、学習の質を高めることができたと考えられる。 一方で、成果が出なかったことを話す生徒もいた。以下はその内容である。 また、学習を自己調整してきた成果を定期テストの結果に求めてしまうと、望みどおりの点数を取ることができなかった生徒は、自分が行ってきた学習の自己調整は成果がなかったと否定的に捉えてしまう。昨年度の論文にも同様の分析を書いたが、そのような生徒が行ってきた自己調整が全て意味のないことだったわけではない。自己選択した認知的方略とその認知的方略を活用したことで得られた学習の成果との因果関係を見つけ、的確に分析する必要がある。その際に、指導者による客観的な評価からの分析を生徒に伝えることができれば、自身が行ってきた自己調整を生徒が否定的に捉えることもなくなるであろう。 最後に平日の学習時間の変容を表したグラフ(図4-3 事前n=133 事後 n=117)を示す。生徒たちが受験生であることを考えれば、グラフのように学習時間が増加していることに不思議はない。しかし、研究実践によって生徒が認知的方略を獲得したこと、メタ認知を働かせて認知的方略を自己選択したこと、振り返りを行い認知的方略の有効性を実感し動機づけを高めたことは学習時間が増加したことと無関係ではないであろう。実践に対するこれまでの考察から、質を伴った学習時間の増加を実現することができたと筆者は考えている。 (2)自己調整する力の汎用的な発揮 動機づけ、学習方略、メタ認知の三つの要素を備えることで、本実践では学習における自己調整する力の育成を目指した。自己調整する力の汎用性を実感するためには、これまで無自覚であった自己調整を生徒が自覚する必要がある。自覚することで、学習だけではなく普段の生活の中でも、見通しを立て実行してみて上手くいかなかったら改善するという自己調整のサイクルを循環させて課題の解決に向かうことができるであろう。 図4-4(n=118)からは7割近くの生徒が学習におい中学校 学びを自己調整する力 20
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