615_R4「自己調整」最終稿【久保田】
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実践を進めながら、今回の学習課題を解決する際に生徒がどの認知的方略を活用することが多かったのか、授業での認知的方略の活用傾向を成績層別に調査することにした。図3-13(n=91)は直近の数学の定期テストの素点が85点以上の生徒を成績上位層(14人)、50点以上の生徒を中位層(50人)、49点以下の生徒を下位層(27人)とし、成績層別に円グラフで認知的方略の活用傾向を表したものである。 F E D 円グラフからは、どの成績層でも援助要請方略を活用している生徒が多いことがわかる。特に成績下位層になるほど援助要請方略を選択する割合が増加している。生徒が記述した振り返りを読むと、成績上位層の生徒が援助要請方略を選択した理由には「友だちに説明することで自分の理解が確認できる」のような、自分のより深い理解のためといった記述が多かった。一方で成績下位層の生徒は「一人で考えてもわからないから」「友だちに聞いたほうが早い」のような、友だちを頼るといった記述が多かった。同じ援助要請方略でも成績上位層の生徒がいわば発展的な援助要請であるのに対し、成績下位層の生徒は他者への依存的な援助要請になってしまっているといえるであろう。 また、成績上位、中位層には「なぜそうなるのか」といった解決に至るまでのプロセス(解き方や考え方)を確認して解くという、意味理解方略を活用している生徒が一定数、存在した。一方で、成績下位層の生徒には「とにかく答えを出したい」と意味や内容の理解をそれほど重視せずに答えを求めてしまう傾向があると考えられる。解決に至るまでのプロセスを大切にしないので真の理解につながらず、次に類似の問題が出題されても解けない、応用ができないといったことが起きてしまうのであろう。 これらの分析から、成績下位層の生徒への手立てを考えた。援助要請方略を選択すること自体は悪いことではなく、友だちと協力することで学習内容のより深い理解や動機づけの向上につながる。しかし、頼りっきりになるのではなく、あくまで協働して学習課題の解決に向かう意識を生徒にもたせることが大切になる。その際には「答えさえわかればよい」のではなく、「なぜそうなるのか」と意味理解を大切にすることも生徒に伝える必要がある。また、認知的方略を活用することができずに「わからない」と動機づけを低下させてしまう生徒には、グラフや表に書き直したり分類や整理をしたりすることで内容の理解が深まることを指導者が実際にやって見せることが必要である。成績上位層の生徒が、認知的方略を活用してどのように問題を解いているのかを紹介することも有効な手立てになるであろう。低学力の生徒が自発的に、高い動機づけをもって自己調整を行うことは難しい。そのため、これらの他者からの支援といった手立てが必要になると考えられる。 <11月下旬 単元:円の性質> 3回目となる今回で、A校での授業実践は最後となる。授業では円周角の定理や弧と円周角の関係といった、円の性質を利用して解く学習課題を複数用意し、これまでと同様に学習課題の解決に迫るための認知的方略を生徒が自己調整する機会を設定した。「この学習課題を解決するためにはこの方略がよさそうだ」と見通しをもつことや、これまでの実践の反省から認知的方略を自己選択する目的はあくまで学習課A・・・援助要請方略 B・・・リハーサル・記憶方略 C・・・リソース活用方略 D・・・体制化方略 E・・・意味理解方略 F・・・関連づけ方略 図3-13 成績層別の認知的方略の活用傾向 A B C 中学校 学びを自己調整する力 15 23

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