6 教育研究の方向性 5 (5)本市(京都市)における取組 本市においては,小,中,義務教育学校が重視する視点として,「学習の基盤となる資質・能力の一つである情報活用能力を育てるために,子どもの発達段階に応じてICT機器を活用した学習場面を設定するなど,これまでの教育実践とICT活用を適切に組み合わせていくことで,協働的な学びと個別最適な学びを共に実現させる」(17)ことが示されている。 その実現に向け情報活用能力については,小学校低学年,中学年,高学年,中学校それぞれの発達段階において育成すべき能力の具体が,「情報活用能力アドバイスシート」(18)によって明示された。このシートはGIGA端末配備が完了した令和3年3月に示されたが,シートに示された情報活用能力の中から各校が特に重視する情報活用能力を決め,どの学年のどの単元で育成を目指すのか,具体的な教育課程を示すようにとの通知が同時に出されている。GIGAスクール構想を推進するにあたり,情報活用能力の育成という観点を踏まえながら教育活動を行うことが改めて全市的に確認されたのである。 さらに,本市教育委員会のGIGAスクール構想のホームページでは,GIGA端末の基本的な操作に関する指導動画が配信されたり,先進校の取組が例示され始めたりしている。また学習支援ソフトを活用して「GIGAスクール共有チーム」が作られ,各校の関係主任がメンバーとなり,情報交換が行われる仕組みが整えられた。教育委員会が総体となって,学校現場でのGIGAスクール構想の推進を支援している。 各教科等の授業を含め校務全体においてどのようにGIGA端末を活用しているのか,少しずつではあるが実践例が蓄積されている現状であるが,今後本市において求められることは何であろうか。 一つ目は効果の検証であろう。GIGA端末を使ってどのような実践をすればどのような効果が得られるのか,成果を踏まえた実践例の提示が必要となるであろう。それにより今後,育成したい資質・能力に合わせたGIGA端末の使い方の選択が可能になる。 二つ目は日常的なGIGA端末の活用例の提示であろう。これまでのICTの活用例は,特定の教科,単元に合わせて考えられたものが主であった。つまりICTは限定的に活用されており,授業の中で指導者の指示によって子どもたちに使われることがほとんどであったといえる。しかし,令和の日本型学校教育に求められている端末活用の姿はそのようなものではない(19)。 目指されているのは,特定の教科や単元のある1時間において,指導者の指示によって全員がICTの同じ機能を使っている姿だけではない。単元の各時間に収集した情報や考えを蓄積し,単元終末のまとめ・表現に生かすようなことも考えられる。必要に応じて,友だちと情報を共有して成果物を作成する子どももいるであろう。他教科で収集した情報を活用して,考えを表現するための資料を作成している子どももいるかもしれない。同じ時間に,ある子どもはweb検索をしている,ある子どもは集めた情報の整理・分析をしているというように,個々の学習状況に応じた使い方があり得る。または,休み時間に学習に必要な情報を自主的に調べる子どもがいれば,タイピング練習をしたり,練習問題を解いたりしている子どもがいてもよい。ICTの活用が単元縦断的または教科横断的であったり,協働的あるいは個別最適な学びを目指して複線的であったりすること,そして休み時間にも開放されることでICTの利用機会が増大し,日常化する。結果として子どもたちがICTを文房具として使いこなせるようになる,そのような実践例が求められているのであろう。 1人1台の端末環境を生かし,端末を日常的に活用することでICTの活用が特別なことではなく「当たり前」のこととなるようにするとともに,ICTにより現実の社会で行われているような方法で児童生徒も学ぶなど,学校教育を現代化することが必要である。児童生徒自身がICTを「文房具」として自由な発想で活用できるよう環境を整え,授業をデザインすることが重要である。 本年度,研究課においては,京都市のGIGAスクール構想の推進をけん引すべく,各々の研究領域において様々な ICT活用事例を創出する。その際は学習指導要領が改訂されたことを踏まえ,各教科等において身に付けるべき資質・能力は何か,本市の児童生徒の状況や授業の課題と関連付けて焦点化する。 その育成のためには個別最適な学びや協働的な学びが必要不可欠であることから,GIGA端末を活用することでどのように個別最適な学びや協働的な学びが充実するのかが研究の焦点となろう。あるいは,情報活用能力や自己調整する力といった教科横断的な資質・能力の育成に資するGIGA端末の活用法も模索できよう。
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