(1)これからの社会に求められる資質・能力 2 近年,情報や技術を巡る変化の速さが加速度的になり,情報化やグローバル化といった社会的変化が,予測を超えて進展している。第4次産業革命ともいわれる,人工知能,ビッグデータ,IoT(Internet of Things)等の先端技術が目まぐるしい速度で高度化し,あらゆる産業や社会生活に取り入れられることで,社会の在り方そのものが劇的に変わるSociety5.0時代は,もう到来しているといってよい。 例えば,社会に出るための第一歩と言える就職活動では,従来の履歴書を会社に送るというやり方は減少方向にあり,エントリーシートをオンライン上で記入,登録するというのが当たり前になっている。また,企業の説明や面接もオンライン化しており,コロナ禍であった2020年度は,日本経済団体連合会所属のうち88.4%の企業がwebによる企業説明会を,92.9%の企業がweb面接を実施していた(1)。 この説明会や面接のオンライン化についてはそのメリットが大きいことから,コロナ収束後であっても過半数の企業が維持すると回答している(2)。 また,「今後10年~20年程度で,半数近くの職業が自動化される可能性が高い」「子どもたちの65%は,将来,今は存在していない職業に就く」といった未来予測から,人工知能の進化により人間が活躍できる職業がなくなるのではないかといった不安の声もある(3)。例えば,一部の国や地域でもう既に実現している無人バスや無人タクシーには運転手の姿がない。これらには,人件費や運転手の勤務時間を気にせずに運用できるというメリットがある。確かに従来の仕事が減ったのではあるが,コストや労働環境などの課題を解決するために,無人バスや無人タクシーのシステムを構築しメンテナンスする仕事,あるいは無人バスや無人タクシーに向いた車体の開発といった新たな仕事が捻出されたといえよう。 減る仕事がある一方で,社会の課題を解決するための新しい仕組みを考え実現するといった新たな仕事が増える。そのような仕事を生み出すためには,目の前の事象から解決すべき課題を見いだし,主体的に考え,多様な立場の者が協働的に議論し,納得解を生み出すことなど,正に学習指導要領で育成を目指す資質・能力を生かしていくことになるであろう。 その際に,主体的に情報や情報技術を活用する力も必要である。就職活動の例にもあるように,今や情報はインターネットの世界から集めることが主流となった。そこには膨大な情報があふれており,しかもその量は増大する一方である。それらの中から意図に合わせて適切な情報を収集したり,複数の情報を分析し問題解決に必要な考えを導き出したりする力が必要であろう。あるいは,遠くに居る他者と協働的に議論するためには,ICTを使いこなすことで効率的に関わり合うことが必要となるであろう。 一方,スマートフォンやソーシャルネットワークサービスが急速に普及しその利用も低年齢化する中で,これらの利用を巡るトラブルも増大している。情報や情報技術を適切かつ安全に活用していくための情報モラルも身に付けるべき力となる。 以上のことから,情報や情報技術を活用する力である情報活用能力育成の重要性は,より一層高まっているといえよう。平成29年に告示された学習指導要領において,情報活用能力が言語能力や問題発見・解決能力と同様に学習の基盤となる資質・能力として示された(4)ことは,こういった社会背景を踏まえてのことであると考えられる。 (2)個別最適な学びと協働的な学び 令和の学校教育が直面する課題は,情報活用能力をはじめとするSociety5.0時代に必要な資質・能力の育成だけではない。子どもたちの多様化にも向き合う必要がある(5)。 特別支援学校や特別支援学級に在籍する児童生徒,日本語指導を必要とする児童生徒,相対的貧困により教育や体験の機会に乏しい児童生徒,不登校傾向にある児童生徒等,個々の状況に配慮した適切な支援を要する児童生徒は増加傾向にある。また,特定分野に特異な才能のある児童生徒や特異な才能と学習困難とを併せもつ児童生徒の才能をどう伸長するかについても対応する必要があると指摘された。 これまで日本の学校教育においても,子どもの興味・関心を生かした自主的,主体的な学習が促されるよう工夫することなど個に応じた指導が重視されてきた。さらに,前述のような子どもたちの状況を教育研究の方向性 1 令和3年度 教育研究の方向性 -令和の学校教育に求められるもの-
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