614 R3最終稿【木村】
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階である。例えば,それまで子どもの意見をホワイトボードに書いて黒板に貼らせていたことを,学習支援ソフト等を使って書かせた意見を共有機能で即座に共有するような場合である。それまで紙で配付していた練習問題を学習支援ソフトで配付することも含まれる。授業中に,教員の指示によりピンポイントで活用される段階,つまり教員が慣れる段階である。黒板とホワイトボード,紙から学習支援ソフトへと道具は変わっているが,それぞれの基本的な機能は変わっていないので効率以外に特に効果を感じることもなく,子どもたちの情報活用能力もあまり向上しない。 二つ目のステップは,A(増強)である。豊福は「SAMRモデルのA【増強】段階では,ICTを用いて機能を改善するだけでなく,学習者としての圧倒的情報量の扱いと豊富な経験蓄積が揃わないと,次のM【変容】に到達できない」(4)と述べているが,この段階で大きな変化が必要だということになる。S(代替)で示した共有機能の例でいえば,共有した意見から必要な部分を個々の子どもがコピーしてそこに自分の解釈を付け加え,自身の考えと比較したり関連付けたりした上で統合するというような活動が考えられる。他者の考えを素早く生かすことができるという機能面の改善が行われると同時に,共有した複数の意見から必要な部分を選択するためには様々な判断が伴うのであり,圧倒的情報量の扱いの経験蓄積につながると考えられる。同時に,文具的活用とあるので活用の主体は子どもである。わからないことがあったらwebで調べる,体育での技の様子を撮影し客観的に自身の動きを把握するといったICT活用はそれほど高度なスキルは必要ない。子どもの必要に応じて自己判断で活用できるようにすることで,子どもにとっての文房具へと近付いていくであろう。 GIGA端末を使う学習過程に注目すると,1時間の中でも複数の過程にまたがることも特徴である。体育の例でいえば,自身の技を撮影することは情報の収集にあたる。自分の技の出来栄えが良いかどうかを判断するにはモデルが必要であるから,事前に手本の動画も見ていると考えられるが,これも情報の収集という過程である。収集したそれらの情報をもとに比較することで,自分の技の様子を客観的に捉え改善点を見いだすことは情報の分析の過程にあたる。 また図1-1を見るとこの段階で活用頻度が大きく上昇している。豊富な経験蓄積のためには,活用頻度を上昇させることが必要となる。豊福は「ピンポイント授業活用より学校日常のデジタル化」と述べており(5),ICTを子どもと指導者の連絡応答手段とすることやデジタル連絡帳とすること等,情報ライフラインを整備することを提案している。このような授業外での日常的な活用とそれによるICTのスキルアップは,指導者や子どものスキルが未熟な段階において授業でICTを使うと時間内に終わらなくて困る,という現在の課題にも対応し得るのではないだろうか。他にも,休み時間や帯時間にタイピングソフトでタイピング練習をすることや,1分間スピーチで写真をもとに発表することなども考え得る。朝,学校に来たらGIGA端末を用意し,簡単な使い方でよいので様々な場面で使う。ICTを日常的に活用していくことが必要なのである。 このような活動を必要とする理由は,三つ目のステップであるM(変容)においては, 膨大な情報を効率よく扱うというICTのよさを生かした活動が前提となるからである。 M(変容)の活用特徴に知的生産と蓄積編集とあるが,知的生産とは「頭を働かせて,なにかあたらしいことがら―情報―を人にわかるかたちで提出すること」(6)である。蓄積編集とは情報を収集・蓄積し,それを使いやすい形に編集すること,例えば思考ツールで整理することや動画をスロー再生して比較すること等であろう。つまりこれらは,情報の収集,整理・分析,まとめ・表現という過程を踏まえた活動,GIGA端末を使った授業の理想の段階に該当する。多くの情報を集めるには,検索スキルが必要であるし,写真や音声,動画といった形式で情報を収集するのであれば,そのための機能の扱いにも慣れなければならない。集めた情報を整理して保存しておくフォルダ管理スキルも必要である。考えたことをより多く表現しようとすれば,より素早いタイピングスキルも必要である。これらは,年間数回のICT活用のみで身に付くとは考えにくい。故に,A(増強)のステップにおいて子どもたちがICTを活用する頻度を高め,前提となる情報活用能力を習得しておくことが重要なのである。 また,この段階に至った子どもたちは圧倒的情報量の扱いと豊富な経験蓄積を備えているので,ICTのよさを実感している。わからない情報や知りたい情報があれば進んで収集しようとするであろうし,手に入れた情報はメモや写真,動画などの形で蓄積しておくであろう。蓄積した情報は当然次の学習に生かされる。過去の学習履歴と関連させて考え,そこからヒントを得る場合もあろう。以前知り得た友小学校 情報教育 3 133

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