第2節 算数科・数学科の課題とその要因 算数科・数学科で扱う内容は異なるが,数学的な見方・考え方が働く数学的活動を行っていくことで,教科の目標である数学的に考える資質・能力を育成していかなければならない。では,算数科・数学科それぞれで数学的に考える資質・能力は育成できているのだろうか。また,数学的な見方・考え方が働く数学的活動を取り入れた授業となっているのだろうか。算数科・数学科の現状と課題,その要因を示し,両研究で目指す方向性を述べる。 (1)算数科・数学科の課題 2018年に行われた OECDによる生徒の学習到達度調査(PISA)(6)の結果によると,数学的リテラシーは,OECD加盟国の中では1位であるとともに,IEAが進めているTIMMS2019(7)の結果も小学校5位,中学校4位という成績であった。この結果から我が国の算数科・数学科における一定の教育の成果があったといえるだろう。 一方で課題もある。令和3年度全国学力・学習状況調査報告書(小学校算数)(8)と令和3年度全国学力・学習状況調査報告書(中学校数学)(9)の結果を見てみよう。表1-1に示すように,「思考・判断・表現」と「数学的な見方や考え方」のポイントが他の観点に比べ低い。中学校における「数学的な見方や考え方」は,平成20年改訂の学習指導要領による評価観点であり,現在の「思考・判断・表現」に当たるだろう。この思考・判断・表現と数学的な見方や考え方の課題の多くは「求め方や理由を記述すること」「判断の理由を数学的な表現を用いて説明すること」などである。この課題は,平成31年度の以前の全国学力・学習状況調査でも同様であった。 以上に述べたように,PISAや全国学力調査の結果から「知識及び技能」はある程度高まってきているが,「思考力,判断力,表現力等」には依然として課題があることが示された。現在求められている三つの資質・能力は別々に育まれるものではなく,バランスよく学びが繰り返され,互いに関わりながら高まっていくことが目指されている。「思考力,判断力,表現力等」も,他の資質・能力と同等に学び方を工夫しながら伸ばしていくことが重要であると考える。では,なぜ「思考力,判断力,表現力等」に課題が生まれるのだろうか。その要因を以下に述べる。 (2) 「思考力,判断力,表現力等」の課題要因 ①算数科・数学科の教科特性 算数と数学は一般化された考え方や公式を使えば,数が変わったとしても同じ解き方で解けるというよさがある。しかし,そのよさは課題にもなり得る。「速さ」の問題で例を挙げてみよう。問題文に出てくる数は,基本的に「速さ」「時間」「道のり」の三つである。その数をかけ算やわり算で組み合わせることによって「速さ」や「時間」などを求めることができる。しかし,どの組合せでどのように計算すればよいのか理解できない子どもも中にはいるだろう。指導者は解を求めるプロセスを考える活動は取り入れるが,理解ができない子どものことも考え,図1-2のように一般化された方法も紹介する。表1-1 令和3年度全国学力・学習状況調査一部抜粋 図1-2 道のり・速さ 時間の関係図 図1-3 解の公式 中学校 教科指導(数学科) 3
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