611 R3最終稿【椙村】
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小学校 教科指導(算数科) 20 図4-5【実践前】S児のノート(左) 【実践後】S児のノート(右) 図4-4 アンケート結果③ 80 すく話そうという意識が高まった。図4-5に示すのは実践前と実践後のS児のノートである。不十分な説明もあるが,実践前に比べてかなり簡潔に要点を絞り,順序立てて表現することができている。実践後の研究協力員からは「(これまでは)書いた文章は自分だけのものだったので,発表をするときも書いた文章をそのまま読むだけだったけれど,考え方を互いに見合って説明するので,要点を絞って書く意識が出て説明がわかりやすくなった」という意見が得られた。筋道立てて考え,簡潔・的確・明瞭に表現する力は,Q児やR児,研究協力員の回答からもわかるように「考え方の図式化,要点を順序立てる」ことと「他者との交流」の繰り返しによって高めることができたと考えられる。 思考力の中に,「統合的・発展的に考察する力」とあるが,その力については,第3章の5年生の実践から,問いを工夫することによって伸ばしていくことができるといえるだろう。しかし,3年生の実践からもわかるように,発達段階を考慮する必要がある。学び合いのポイントカード(p.9)のように,話し合う視点を教えたり指導者の発問で統合的に考えられるようにしたりするなど,低学年から少しずつ積み重ねていくことによって,統合的・発展的に考察する力を高めることができると考える。図式化すること,要点を絞り順序立てて考えること,互いに考えを説明し合うことによって,「思考力,判断力,表現力等」の高まりにつながったといえそうである。 一方で,GIGA端末の使いどころや児童らの人間関係も考慮しながら,柔軟に授業デザインを工夫していく必要があることもわかった。また,この授業デザインでは児童に学習を委ねる時間が多いため,知識・技能の定着に不安があるという声もあった。「個別最適な学び」になることは,児童の学びが複線化 考え方がくわしく説明できていなかったけれど,図やグラフで考えを表すことができるようになった なぜこの式,答えなのかを考え相手にできるだけ伝わるように言葉や図や表を使って説明できるようなった 少しでもわかってもらえるように一回一回の説明の仕方を改善して次に生かせるように意識するようになった 図やグラフ,表などを使って説明するとわかりやすく伝わることがわかったから,どのような図や表,グラフで表せるかを考えることが多くなった ただし,個別最適な学びとなる授業において,授業の1時間の中で他者と考えを伝え合わない児童もいる。その児童には,共有フォルダから友だちのよりよい考え方や説明の仕方を見つけるようにするなど,自分の考え方や説明の仕方を他者と比較する活動が必要である。そして授業の最後には,知識,技能を問う練習問題だけでなく,解き方や考え方の説明が必要な問題にするなど,再度自分の考えをアウトプットできる場を設定し,個人でも表現力を高められるようにする工夫が必要である。 (2)個別最適な学びの実現を目指した授業から見えてきたもの 研究協力員にこの授業デザインによる実践を通して「児童の変容(良かったところ)」「児童の様子(改善点)」「指導者にとって必要な力」について聞き取りを行った。聞き取った内容を次ページの図4-6にまとめる。 指導者から見ても,児童らの「思考力,判断力,表現力等」の高まりを感じていることがわかる。他にも,この授業デザインを取り入れることによって,「様々な子どもたちの意見を見取ることができるようになった」「学習方法が多様になることにより,個別に支援する子どもの数が減った」「子どもの考えや主体的に学ぶ態度の変容が見取れるので評価がしやすい」といったプラスの面が指導者にとってもあることがわかった。

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