ア:個別支援 イ:児童同士をつなぐ ウ:よりよい考え方や表現の仕方を共有 本研究では,京都市立小学校2校(以下「A校」「B校」)で授業実践を行った。対象学年はA校第3学年,第4学年,B校第5学年,第6学年である。実践にあたって,「思考力,判断力,表現力等」に当たる筋道を立てて考える力や統合的・発展的に考察する力,他者にわかりやすく説明する力を育むために,以下の学習活動を毎時間取り入れることにした。 自力解決 ①考えを図式化すること ②考え方の説明をかくこと ③考えを伝え合うこと と 学び合い 学び合いの終盤 本時のまとめ(全員による集団解決) 小学校 教科指導(算数科) 11 第3章 実践の具体 (15)秋澤武志 植阪友理 日本教育心理学会第61回総会発表論文集(2019年)『生徒がアウトプットする活動を取り入れた高校数学授業 ―学びに向かう態度,深い理解,定期考査に及ぼす効果の検証―』2019 毎時間取り入れた学習活動 アの個別支援とは,低位層,中低位層を中心に,児童が課題解決の過程でつまずいていないかを指導者が判断し,個別に支援を行うことである。児童が思考を働かせるために,先述したように課題把握場面でヒントカードの提供を行うが,それでも支援を要する児童が学級にはいるだろう。支援を要する児童のそばで助言をしながら一緒に問題を解くなど丁寧な個別の支援を行っていく。 イの児童同士をつなぐとは,もう少しで解決にたどり着けそうな児童と,既に自力解決できている児童とをつなげたり,新たな考え方を知るために考え方の違う児童同士をつなげたりすることである。基本的に自力解決を終えた児童同士で学び合いに向かうが,場合によっては児童が友だちに教えることも大切であると考える。教える側は自分の考えをアウトプットすることで理解を深め,教えられる側はどのように考えればよいのかがわかり,共に思考を働かせ学びを進めていくことができると考える。児童同士をつなぐ意図は他にもある。従来の集団解決では,児童が統合的に考えながら本時のねらいに迫れるように,様々な児童に発表を促していた。しかし,新たな授業デザインによる学び合いの場で自分の考えを自由に友だちに伝えようと指示を出すだけでは,いろいろな考え方に触れることができるとは限らない。そこで,指導者が考え方の違う児童同士をつなげ,統合的に考えられるようにすることも必要となるだろう。このように,自分の考えを自由に伝え合う場を設けながらも,指導者は児童の考えに合わせて,より学びが深まるように児童同士をつないでいく必要があると考える。 ウのよりよい考え方や表現の仕方を共有するとは,図や表を用いてわかりやすく説明していたり,筋道立てて説明していたりする児童の考え方や表現を全体に共有することである。児童が自分の考え方をもっていても,わかりやすく説明できるとは限らない。答えが合っていても間違った図や表を使っていたり,言葉を区切らず長々と話してしまったりする。それでは算数科で求められている表現力を伸ばしたことにはならないだろう。学び合いの終盤には,正しく図や表などを使ったり筋道立てたりするなど,わかりやすい説明ができている児童を指導者が全体に共有し,価値付ける時間が必要となるだろう。価値付けされた考え方や説明の仕方を,他の児童は真似たり,新たな学びとして取り入れたりしていくことで表現力を伸ばすことができると考える。 以上のように,学習進度に応じて自身で活動内容を選択できる場を設定し,児童が適切に思考し判断し表現し続けられるように,指導者がしっかりと児童を見取り,支援をすることで,「思考力,判断力,表現力等」を伸ばしていけると考える。 ①と②の自分の考えは基本的にノートにかき表し,学習支援ソフトの写真機能でノートを撮り,全体に共有するようにした。自分の考えをわかりやすく説明するために複数の写真やスライドを使ったり,学習支援ソフトを使って文字や絵をかき加え編集したりすることは個人の自由とした。学び合いの場71
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