(1) 動機づけ 動機づけとは,目標を達成するために行動を起こし,行動を持続し,目標の達成へと自身を導いていくプロセスを指すものである(6)。一方で動機づけを,目標を達成するために行動を起こし,行動を持続し目標達成へと導く内的な力(7)とし,機能として捉えて用いることもある。なお,本研究では先行研究による表記に従い,「動機付け」ではなく「動機づけ」と表記することとする(以下同様)。 この動機づけには賞罰や叱咤激励といった外側からの働きかけに応じる外発的動機づけと興味や関心といった内側から出てくる積極的なやる気といった内発的動機づけがあるといわれている。特に学習を始める前や学習の初期段階において,目標を設定したり,興味や関心をもたせたりして学習者の動機づけを高めておくことは,その後の学習に大きな影響を与えていくであろう。 自己調整学習では学習者がより自発的に学習に取り組もうとする内発的動機づけへと導いていくことが必要であり,やる気は移り変わっていくものだと考えられている。田爪は「内発的動機づけの方が望ましいと考えられるが,現実的には特に学習の初期では外発的動機づけの方が,即効性があり効果を得やすい」としている(8)。具体的に述べると,内発的動機づけとは,学習すること自体が楽しいや面白いといった目的となっている状態で,より自律性が高いといわれている。 一方で,外発的動機づけとは,例えば飲食や金銭的なものなどでやる気を高めるといった外的要因による動機づけがそれに当たるが,外発的動機づけの中にもいくつかの段階があり,自律性が高いものもある。そのため外発的動機づけをネガティブなものとして捉えるべきではないであろう。先生や親から誉められたい,喜んでほしいという理由で学習を頑張ることができる生徒もいるであろうし,このような外的要因の方が自身のモチベーションを高めることができるという生徒もいると思われるからである。そもそも学習を始める前から既に内発的な動機づけによって,学習に取り組むことができる生徒ばかりではないであろう。 つまり,即効性が期待される外発的動機づけを学習に向かうきっかけとしてうまく活用することが重要になると考えられる。そして,学習を進めながら生徒の興味や関心を徐々に満たし,満足感を得ることで内発的動機づけへと移行していくことが現実的であろう。その際には,「自分にもできそうだ」という自己効力感を生徒が得ることができるように指導者からの支援が必要になる。また,単なる「好きだから」「楽しいから」といった内発的動機づけではなく,「自分の将来に必要だから」「社会に貢献したいから」といった自律性が高い外発的動機づけのように,生徒自らが自分の人生や社会との関係の中から学習することの必要性を感じて自発的に取り組めるようになることも重要な動機づけだと考えられる。 (2) 学習方略 学習方略とは,自らの学習を効果的にするために学習者がとる方法のことで,いわゆる「勉強法」にあたるもの(9)とされている。つまり,学習方略とは繰り返すことで学習内容を覚えたり,解き方を考えることで学習内容を理解したりするといった技法であり,単に問題集を使って勉強するや教科書を読むといった一般的にいわれる学習方法を内包しているものだと考えられる。そのため,本論文中では一般的な学習方法も学習方略と表現しているところがある。先行研究で伊藤は, 適切な学習方略の使用が,学びの見通しをよくし,学習の実感や手応えを促し,「できそうだ」という自己効力感を高め,その子どものモチベーションをさらに高めていく。動機づけが高まれば,さらに積極的な方略による取り組みを促し,その結果,より良い成果に結びついていくものと考えます。 と述べており,多様な学習方略をもつことと適切な学習方略を使用することによる学習の成果の実感が,更なる学習の好循環を生み出す可能性を示唆している(10)。 学習方略については様々な分類の仕方があるが,本研究では「小中学生の学びに関する実態調査 速報版」の中で示されている分類によることとして,筆者が次ページの表1-1にまとめた(11)。 このような学習方略は学習の進み具合や学習内容,その時の学習に対するモチベーションに応じて,自分で選択していくことを考えれば,なるべく多くもっているほうがよい。しかし,成績中位層や下位層の生徒たちがこのような学習方略を数多くもっている可能性は低く,独力で学習方略を獲得していくことも難しいと考えられる。このような生徒が多様な学習方略をもつためには,クラスメイトや指導者から教わるといった他者からの支援が必要となるであろう。 中学校 情報教育 3 107
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