第1節 自己調整する力とは (1) 誰もがもっている力 日々の生活を送る中で,私たちは様々な課題を抱えることがある。友人や職場の同僚との人間関係や仕事上のトラブル,経済的な困りなど,すぐに解決できるものもあれば,多くの時間とたくさんの仲間からの協力を得なければ解決できないものなど様々である。そして,私たちは抱えている課題をそのまま放置したりはせず,いつも柔軟に調整して解決していく。その際のプロセスを具体的に述べると,まずは課題を解決するためのプランを立て,自分が最適だと考える方法を実行するであろう。そして,その方法がうまく進めばよいが,成果が出ていないと判断すれば別の方法を選択したり,家族や親しい友人に相談したりして改善を図っていくであろう。このような調整を加えながら課題を解決していく活動は何も特別なことではなく,私たちが日々の生活を送る中でごく自然に行っている活動である。 学校生活を送る中で,生徒たちも自分で調整を加えながら課題の解決を図ることは多々ある。例えば部活動において,サッカー部がある大会での優勝を目標として設定した際,その目標を達成するための計画を部員たちで考えるであろう。中学生ぐらいになれば,生徒の自主性を高めるために,生徒たち主導で練習のプランニングを行うように指導しているチームもある。計画の中にはいつどのような練習に取り組んでいくかという順序やタイミングだけではなく,内容や方法についても含まれる。そして,立てた計画どおりに練習に取り組んでいくことになるが,必ずしも当初に立てた計画どおりに練習が進むとは限らない。練習したことによる効果を常にモニタリングし,不都合があれば自分たちで最適な取り組み方へと調整していくことが必要になる。時には監督やコーチからの指示やアドバイスが入ることもあろう。このような調整を加えながら,最終的には目標が達成できたかを評価し,その成否の要因を明らかにしていく。そして,次の目標を設定する際にその分析結果を反映させることで,チームに合ったより最適な目標や計画を設定し,次のレベルへ向かっていくことができるのである。 このような目標の達成に向けて自ら調整していく力のことを,学習場面に置き換えた時に中谷は, 児童・生徒が,自らの学習過程を客観的に捉え,うまくいかなかったところはどこか,どのようにすれば次には改善できるのかを振り返り,自らの学びをコントロールする力を指すものである。 と述べている(1)。私たちはこのような自己調整する力を,日々発揮しながら日常的に課題の解決を図っており,この力は人生においても汎用的な資質・能力だと捉えることができるであろう。 (2)学びの場面で自己調整する力を発揮することの必要性 学びの場面で自己調整する力を発揮することは,生徒が主体的に学習を進めていく上で必要な資質・能力だといえるであろう。しかし,この自己調整する力は個々人によって力量に違いがあり,その違いが学びの場面で大きな違いを生んでしまっていると考えられる。 「小中学生の学びに関する実態調査(2014)」によると,中学生の学習上の悩みとして以下の2点が上位に挙がっている(2)。 ・「勉強が計画通りに進まない」・・・43.7% ・「上手な勉強のやり方が分からない」・・・54.7% この結果から,生徒たちは学習を進める上で計画を立てることは行っているが,その都度,必要に応じて計画を修正していくことやいま自分が行っている学習方法の良し悪しを検討し,課題に応じた最適な学習方法を選択することができていないといった現状が浮かび上がる。 さらに「上手な勉強のやり方が分からない」と答えた生徒を成績上位層から成績下位層に分類した(3)。 ・「上手な勉強のやり方が分からない」 成績上位層・・・29.9% 成績中位層・・・55.3% 成績下位層・・・75.0% 「上手な勉強のやり方が分からない」と答えた下位層の生徒は,上位層に比べるとその割合が約2.5倍中学校 情報教育 1 (一部,筆者により編集) 105 第1章 研究主題について
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