613 R3最終稿【久保田】
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124 多くの生徒がクラウド上の個人フォルダ内にSMS(学習情報)を保存することや学習支援ソフトの課題機能を活用することに慣れていった様子がうかがえ,実践を始めてから2ヶ月が過ぎたころには操作の仕方を質問してくる生徒はほぼいなくなっている。また,複数の情報を比較したり関連付けたりしながら,学習の進み具合を分析することも実践の中で日常的に行っているので,生徒Hの発言が出てきたのであろう。情報を整理したり分析したりする経験を積んだことにより,情報活用能力の習得と発揮について一定の成果があったと考えられる。今後は多数ある情報の中から,自ら目的に応じて統計的に整理したり,考えるための技法を組み合わせたりするといったステップⅣの情報活用能力(15)を身に付けていくことを目指していきたい。 最後に課題を挙げる。本研究実践により,一定数の生徒は情報活用能力を基盤とすることで,効率的かつ効果的に学習方略を獲得したり,メタ認知を働かせたりすることができ,それを次の学習への動機づけにつなげることができたと考えられる。それは必ずしも成績上位層の生徒に限ったことではなく,成績中位層や下位層の生徒の中にも見られた変容である。しかし,一方で今回の実践の効果を実感することができなかった生徒が数多く存在していることも図4-3は表している。その理由を考察すると,いくつかの原因が考えられる。 一つ目が,学習を自己調整してきた成果の実感を生徒が定期テストの得点に求めたことである。本研究の目的は学習を適切に進めるための自己調整する力を身に付けることであるが,生徒にとってみれば適切に自己調整ができたことよりも,定期テストの得点が増減したことの方が実感を得やすい成果といえるだろう。理想は学習の自己調整が定期テスト等での好結果と結び付くことである。しかし,自己調整ができていれば定期テスト等で必ず得点が上がるとは言い切れない。なぜなら,行っている自己調整がいつも適切だとは限らないからである。そのため,指導者とSMSのやり取りを行い,第三者からの視点を得ることが必要になるのである。 おそらく,定期テストの得点が伸びなかった生徒の中には,指導者とSMSのやり取りをしても得点が上がらず,効果がなかったと捉えた生徒もいただろう。しかし,得点は伸びなかったかもしれないが,指導者とSMSをやり取りしたことは適切な自己調整を行うための支援となっていたはずであり,この経験は今後の成果に必ずつながっていくはずである。一方で,指導者からの支援の質を検証していく必要もある。実践期間はわずか2ヶ月程度である。効果を検証するには今しばらくの実践の継続が必要だと考えている。 二つ目が,学習情報を記録するためのSMSの活用が習慣化しなかったことである。SMSを活用することの有用性や学習を自己調整することの必要性については,実践を始める前に生徒たちに伝え,活用を促すための声かけや指導は実践中も継続して行ってきた。しかし,今回の実践期間では生徒に十分に伝えることができなかったと考えられる。今後も学習情報を記録することと記録した学習情報を活用することの有用性と必要性は,継続して生徒に伝えていきたい。 また,SMSは生徒にとって魅力的で良いものとなるように工夫して作成したが,形式や運用の仕方には改善の必要性があるであろう。この点について,生徒からは勉強した時間数だけでなく,何時から何時まで勉強したことがわかるようにしてほしいという意見や,デジタルドリルのように勉強した時間によってポイントが貯まりランクが上がるようにしたり,クラスメイトと対決したりする機能があれば活用することが楽しくなるといった意見が出てきた。その他にも,SMSに入力することが面倒なわけではなく,入力するためだけにその都度GIGA端末を起動することが面倒なので,学校でも家庭でも常に起動している状態で置いておきたいという意見もあった。SMSの活用にこだわるわけではないが,学習情報を記録することを生徒に習慣付けるためのアイデアとして検討していきたい。 三つ目が,SMSを使わずとも既に複数の学習情報を活用しながら,自己調整をすることができている生徒がいることである。高次な自己調整ができている生徒にとってみれば,SMSに入力していくことは余計な作業が一つ増えるだけであり,SMSの活用を必須で取り組むべき活動としてしまっては,かえって学習への動機づけを低下させてしまう可能性がある。 これまでの実践で浮かび上がった以上の課題を修正し,今後も実践を続けていく予定である。 中学校 情報教育 20

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