610 R3最終稿【藤本】
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分類してみよう 形に着目… 図2-1 分類する 40 事象を捉えられたという実感をもっているとは限らない。例えば多様な解が想定される問いに対して複数の資料から自分の考えを形成する①と②を組み合わせた実践を通して,異なる資料を踏まえて考えを形成した児童生徒がいたとする。その児童生徒は,異なる資料を関連付けたり統合したりすることの意味や有用性などを感じたものの,多面的・多角的に考えたという意識はなかったかもしれない。①と②を組み合わせた実践(中学校3年公民的分野)には,資料に多様な立場の考えを扱うものも確認できた。例えば京都市の観光公害を扱った授業では,行政や近隣住民,観光客などの声を資料に,児童生徒は様々な立場という視点から,正に多面的・多角的に事象を捉え自分の考えを形成したに違いない。しかし,多面的・多角的に事象を捉えられていると指導者が判断した児童生徒でさえ,そもそも多面的・多角的に事象を捉えるとはどういうことか理解できていなかったり,そうして問題解決することの有用性を実感できていなかったりするケースはないだろうか。 本研究では多面的・多角的に事象を捉える力を育むことを通して,「学習していることは将来にわたって役立ちそうだ」という意識を児童生徒の中に醸成することを目指す。 そのためには,本市の社会科教育で蓄積してきた多面的・多角的に事象を捉えることを促す実践も参考になるだろう。それに加え,具体的にどのような視点を用いて,それらの視点をどのように活用すればよいのか,児童生徒自身の理解を促す働きかけも重要である。さらには「これって大切なことだな」「いろいろなところで使えそうだな」「次は意識してみよう」という自覚的な運用を促すための手立ても必要である。整理すると,手立ての方向性は次のようになる。 ・小中の指導者並びに児童生徒にとって難解なものではないこと (これまでの授業でも行われてきていることを生かす) ・社会科のみならず他教科等でも転用可能な教科横断性のあるものにすること ・多面的・多角的に考察するという思考の自覚的運用を促すこと 第2節 多面的・多角的に事象を捉える力の育成を目指して (1)視点の習得・発揮を促す 第2章第1節を踏まえ,児童生徒に多様な視点の習得・発揮を促すために,本研究ではこれまでも日常的に行われてきた活動の中でも,特に本項①~④で後述する四つの学習活動に注目する。その理由は,それら四つの活動には取り組む過程で学習者なりの視点が表出されやすいという特徴があると考えたからである。活動ありきではなく,ねらいやそれに迫る問いに即すことが前提になるが,それぞれ具体を示しながら意図などについて説明する。 ①情報を分類する 複数の情報を分類するとき,多くの場合,何らかの視点を伴う。図2-1では,児童Aはたくさんの情報から四角形だけを取り出し,児童Bは黒いものを取り出している。この場合,児童A・Bはそれぞれ,形,色という視点でたくさんの情報を捉え,分類したことになる。 活動例としては,以下のようなパターンなどが考えられる。 活動例➊ 単元の学習の冒頭で予想を出し合ったあと,明示した視点ごとに予想をXチャートで分類し,それぞれの視点ごとにグループで調べていく 小・中学校 教科指導(社会科) 6 活動例❷ 単元の学習の終末(まとめる/いかす)でいくつかの結論を自分なりの視点でYチャートに分類し,それぞれの視点に名前をつける たくさんの情報 児童A 色に着目… 児童B

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