知識及び技能思考力・判断 力・表現力等 学びに向かう力・人間性等第2節 研究の方向性 (1)目指す子ども像と資質・能力 中学校での勉強が成績・受験に紐づく印象は小学校と比べて強くなる傾向は否めない。それは進学を控えている現実に起因するであろう。しかしそこに一因があったとしても,得点や合格・不合格の中だけに学ぶ意味を見いだして学習に向かう生徒にしてはならない。学んだことが将来にわたって役立てられることや,学ぶこと自体のおもしろさにも学ぶ意味を見いだし,主体的に学ぶ子どもに育ってほしい。それが,昨年度の研究と変わることのない本研究の目指す子ども像である。 そうした子ども像に迫るために,培う資質・能力を「多面的・多角的に事象を捉える力」に焦点化する。先述したように,この力が「授業で身に付けること」と「将来にわたって実生活でも役立つこと」の両方を満たすものとして児童生徒が実感しやすい可能性があること,加えてこの力の高まりが,児童生徒にとって社会科のおもしろさを実感することにつながる可能性が感じられたからである。そして設定したねらいにより迫るため,第1章第1節(3)を踏まえ,小学校と中学校において実践研究を重ねていく。 (2)小中をつなぐ資質・能力 本研究は小学校高学年,中学校3年生を対象に進める。小学校と中学校で実践研究していくにあたっては,ねらいやそれに迫る方法について,小中をつなぐものとして適切かどうかを検討する必要がある。 下表1-1は小・中学校の社会科において育成を目指す資質・能力(2)である。 三つの資質・能力のうち「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力,人間性等」において,本研究で焦点化する資質・能力に関する記載(下線部)がある。わずかな文言の違いがあるものの,小中で培う資質・能力に「多面的・多角的に事象を捉える力」を設定することの妥当性は感じられる。 ただ,小学校は中学校とは違い「多面的」という言葉は用いられていない。研究主題に掲げる以上,本研究で多面的・多角的に事象を捉えることについて,どのように考えているかここで確認しておきたい。小中それぞれの学習指導要領解説の社会編の記載を整理したものが表1-2(3)(4)である。対象がもつ側面(多面性)と対象をどの角度から捉えるか(多角性)によって線引きされ,「多角的」については,複数の立場や意見を踏まえて考えることと説明されている。 表1-1 小・中学校社会科において育成を目指す資質・能力 ※下線は筆者 ・地域や我が国の国土の地理的環境,現代社会の仕組みや働き,地域や我が国の歴史や伝統と文化を通して社会生活について理解する。 ・様々な資料や調査活動を通して情報を適切に調べまとめる技 能を身に付けるようにする。 社会的事象の特色や相互の関連,意味を多角的に考えたり,社会に見られる課題を把握して,その解決に向けて社会への関わり方を選択・判断したりする力,考えたことや選択・判断したことを適切に表現する力を養う。 ・社会的事象について,よりよい社会を考え主体的に問題解決 しようとする態度を養う。 ・ 多角的な思考や理解を通して涵養される地域社会に対する 誇りと愛情,地域社会の一員としての自覚,我が国の国土と 歴史に対する愛情,我が国の将来を担う国民としての自覚, 世界の国々の人々と共に生きていくことの大切さについての 自覚などを養う。 小学校 小・中学校 教科指導(社会科) 3 我が国の国土と歴史,現代の政治,経済,国際関係等に関して理解するとともに,調査や諸資料から様々な情報を効果的に調べまとめる技能を身に付けるようにする。 社会的事象の意味や意義,特色や相互の関連を多面的・多角的に考察したり,社会に見られる課題の解決に向けて選択・判断したりする力,思考・判断したことを説明したり,それらを基に議論したりする力を養う。 社会的事象について,よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に解決しようとする態度を養うとともに,多面的・多角的な考察や深い理解を通して涵養される我が国の国土や歴史に対する愛情,国民主権を担う公民として,自国を愛し,その平和と繁栄を図ることや,他国や他国の文化を尊重することの大切さについての自覚などを深める。 中学校 37
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