実践の児童生徒の様子をもとに結果から述べると,➊については中学3年生と小学5年生の間に大きな力の差を感じなかった。もちろん個人差はある。しかし概ね児童たちは,「記事を書いた人が何を大切にしているかが違う」「ここはずるい!だってアンケートしている地域が広い」「どっちの記事も文章の中に『しかし』があるけど,『しかし』のあとに書かれている方が,伝わってくる感じがする」「このSDGsのマークもずるくない?」というように,新聞記事に散りばめられた発信者の仕掛けを次々に指摘した。中学3年生の授業の様子と比べても遜色はなかった。 しかし❷の力については,中学3年生との小学5年生の間に圧倒的な差を感じた。 図4-4中学校で使用した資料と同じものを読み取ろうとする児童 56 くことがねらいであった。そのねらいに迫るために 二つの記事を比べる学習活動に取り組んだ。 学年や単元も異なるが,ねらいは大きく違わない し,扱う資料やねらいに迫るために求められる力に ついては同じである。どちらの授業においてもねら いに迫るためには次のような力が必要である。 ➊二つの記事を様々な視点で比べながら,どちらの 記事にも様々なところに情報の送り手の意図が 散りばめられていることに気付くこと ❷その気付きを通して,自分たちに求められること は何かを考えること 例えば小学5年生では本時のまとめを「比べることが大切だと思った」「一つの新聞だけで判断しないことが大切だと思った」というように,取り組んだ活動そのもののことを表現する意見が散見された。 それに対して中学3年生では,「いろいろな視点から情報を読み取る力」や「情報のどんなところに注目すればよいのか,視点をできるだけたくさんもっておくこと」「写真や資料,文章は全て関連付いているというか,関連させようとして編集されていることがある→疑ってみる力」というように,比べて得た様々な気付きを統合したり一般化したりする意見が大半を占めた。このように小学5年生と中学3年生では,一般化する力について,大きな差があることが感じられたのである。 第4章第1節で述べように,実践を通して多面的・多角的に事象を捉える力が付いてきたと感じる児童生徒の割合は上昇した。しかし児童たちにとっては,そのことが将来にわたって役立つという実感につながっていなかった。考えられる原因や改善案についても論じてきたが,ここで紹介した一般化する力の差は,多面的・多角的に事象を捉える力と学習していることは将来にわたって役に立つという実感の相関の有無に関係していることはないだろうか。 多面的・多角的に事象を捉えた結果,どんなことがわかったのか,わかったことにはどのような意味があるのかを考えるには,自分の中で一般化する力が必要である。多面的・多角的に事象を捉えることのよさや必要性を実感するためには,多面的・多角的に事象を捉えてわかったことを一般化する力も大切になるかもしれない。 今後,多面的・多角的に事象を捉える力の高まりを学んでいることは将来にわたって役に立つという実感につなげるために,一般化する力を高める手立てについて検討,実践し小中で研究を更に深めていくことも考えられよう。 小・中学校 教科指導(社会科) 22
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