610 R3最終稿【藤本】
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第2節 指導者の側面から (1)手立ての運用について に関していえば,2年をかけて実践した研究協力校の生徒たちに比べ,実践を繰り返す機会も少なかった。先の①でもあったように,小学生は学習経験も生活経験も中学生ほど多くないのである。 小学生にはいろいろな視点から事象を捉えることのよさや汎用性等について,より明示的な指導による価値付けが必要なのではないだろうか。 以上,述べてきたことを整理すると次のようになる。 「多面的・多角的に事象を捉える力」を培うために,本研究では以下の手立てを講じた。 ・視点の表出されやすい学習活動によって視点の習得・発揮を促す ・可視化による明示的な指導,思考過程の振り返りによって視点の自覚化を促す。 小中が連携しながら研究を進めていくにあたり,本研究では無理なく,校種や教科領域を問わず実践できることを心がけた。焦点化する資質・能力を設定する際は,なるべく教科横断性のあるものにし,小学校でも中学校でも多くの教科領域で研究が進められるようにした。また手立てについても同様に,専門性の高い難解なアプローチは極力避け,多くの教科領域で日常的に行われている四つの活動を軸に据えた。視点の表出されやすい学習活動について小学校の指導者は,「特にこれまでやってきたことと変わらないというか,少し意味合いが付け足されたという感じです」と述べ,負担なく実践できたことを語っている。誰もが負担なく日常的に行えることが,校種や教科領域,経験の垣根を越えた研究には特に大切であると考える。 ただ,負担もなく,どの教科でもいつでもできるということには弊害もある。それは,例えば小中一貫教育目標に「よく学ぶたくましい子ども」などという類の,とても抽象的な目標が掲げられている状況下で起こっていることによく似ている。この目標では何をどのようにしても間違いではなくなり,結果,そもそも何を目指しているのかわからなくなるのである。 本研究においては目標や手立てを見失うことを防ぐツールがある。それが見えるーぺである。実践後に小中の指導者から共通して語られたのは,可視化による明示的な指導について,具体的にはこの見えるーぺの運用についてである。2年にわたって実践を重ねた中学校の指導者は次のように語っている。 が多面的・多角的ということを理解しやすくなったのではと思う。 本研究で見えるーぺを用いたのは「多面的・多角的に事象を捉える力」を付けていくために,小学生にも中学生にも有効であると考えたからである。しかし理由は他にもある。授業で小中の指導者が用いることで,社会科は,何を身に付ける教科なのか,今一度問い直すきっかけになり,内容ベースから資質・能力ベースの授業への転換を図るヒントになるとも考えたからである。つまり見えるーぺが,児童生徒にとっても指導者にとっても,小中の社会科をつなぐツールになり得ると考えたのである。 単に知識を付けるだけでなく,力を付けることが大事だという意識がより大きくなった。そのために具体的にどうするのか一つわかったことも成果に感じる。去年と少し違い,「見えるーぺ=視点」と整理したことで,自分も指導しやすかった。おそらく生徒もわかりやすかったと思う。これまでいろいろな資料を使うことで多面的・多角的という感じで,わりと曖昧に多面的・多角的に事象を捉えることを扱ってきたことを自覚できた。それから,見えるーぺがデジタルになって生徒が自分で使えたり,人の考えを参考にできたりするようになったことで,生徒自身小学生の「役立つ」という実感が高まらなかった要因分析 ・中学生よりも学習経験や生活経験が豊かでないために,様々な視点から考えるということが,将来にわたって役立つという 実感に結び付きにくかったのではないか ・高学年では学習で扱う題材や対象が空間的,時間的に自分たち と隔たりのあるものになることで,児童たちにとって実体験や 実生活と結び付きにくかったのではないか 小・中学校 教科指導(社会科) 19 生徒よりも学習経験や生活経験が浅いことを踏まえ,いろいろな視点から事象を捉えることのよさや汎用性等について,より明示的な指導による価値付けを大切にして実践を繰り返す 改善案 53

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