52 要因① 将来をイメージしにくいことによる影響 「いろいろな視点から考える力」は,中学校の生徒たちにとっては将来にわたって役立つという実感に結び付きやすい傾向がうかがえた。しかし小学校の児童は,たとえ授業の中で「いろんな視点から考える力」が付いてきていると感じていたとしても,だからといって学習していることが将来にわたって役立つという実感にはつながらない児童は少なくなかった。 要因として考えられるのは,小学生の高学年といっても,将来の社会がどのようなものであるか想像するのは容易なことではなく,実社会を想像しづらい児童にとって,将来どんな力が役立ちそうか思い描くのはなおさら難しいからではないかということである。 先に「学習しているどんなことが,どんなときに役立ちそうか」について,中学3年生の回答を三つ紹介した(p.17)。確かに研究成果と捉えているが,何も昨年度から実践を繰り返してきた学習経験だけが,あれらの回答を生徒たちに書かせたとは思っていない。多様な生活経験をしながら義務教育の出口が近付き,実社会の様相が見え始めていることも大いに関係しているであろう。小学生と中学生とでは当然,学習経験や生活経験に違いがある。 この違いを踏まえ,学習していることは将来にわたって役立つという実感を醸成していくには,小学校では「いろいろな視点から考える力」とは別の力を育むことに注力するという改善策が考えられる。今回のアンケートの回答傾向では,母数が少ないとはいえ,小学生では「資料を読み取る力」と将来にわたって役立つという実感の相関性が高かった。確かに小学生にとっては,例えば資料をもとにプレゼンテーションする将来の姿の方がイメージしやすく,結果,役立つという実感の高まりを期待できるのかもしれない。 しかし,小中が連携して児童も生徒も学習していることは将来にわたって役立つと実感できるようにするために,小中が別々の資質・能力を焦点化して研究推進するのは得策でないと考える。小中が異なる資質・能力を設定することで,多様なアプローチを想定できる点ではよさがあるものの,同時にそのよさは,小中連携を名ばかりにする可能性をはらんでいるからである。 多様であるがゆえに何に向かってどのような考え方や手立てで研究を進めているのか,小中間で掌握しにくくなる。小中の学校が施設を隔てた環境下にあればなおのことである。小中が異なる資質・能力を設定してそれぞれの手立てで研究を進めるとなると,考慮してきた小中の接続や系統,教科横断性等を担保することも難しくなるだろう。 要因② 学習で扱う題材や対象の変化による影響 3,4年生の社会科は自分たちの地域やくらしといった身近な題材が学習対象になることが多い。それに対して5年生では世界や日本といった他地域のこと,6年生では過去の事象等も対象となる。つまり学齢が進むにつれて学習対象が空間的にも時間的にも自分たちと隔たりのあるものになりがちで,児童たちにとって実体験や実生活と結び付きにくかったのではないかということである。 図4-2の質問に対して,実践後に「あまり役に立たない」と回答した児童は6年生に偏っていた。6年生の社会科では公民的分野に関わる“今”を題材にした事象も扱うが,実践は歴史的分野の学習を行う時期であった。このことを踏まえると,扱う題材や対象の違いが「役立ちやすい」とか「役立ちにくい」という児童の実感に影響を及ぼした可能性はある。 しかし本研究はどんな学習対象であれ,その対象をいろいろな視点から捉える学習を繰り返すことで,学習していること(=いろいろな視点から事象を捉えること)は将来にわたって役立ちそうだという意識の醸成を促すものである。 本章第1節(1)に示したように,実践後に最も付いてきたと感じる力として「いろいろな視点から考える力」を選択する児童の割合は上昇している。多面的・多角的に事象を捉える力を育む手立てが小学生に適さなかったわけではない。実践後の振り返りで指導者と確認したのは,仮に学習対象の違いが役立ちにくいという実感に影響を及ぼしていたとしても,明示的な指導を徹底することでその影響を回避できたのではないかということである。小学生が様々な立場の思いを踏まえて検討したり,多様な視点から物事を考えたりする必要性やその重要性に気付く機会自体は中学生ほど多くない。加えて本研究小・中学校 教科指導(社会科) 18
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