610 R3最終稿【藤本】
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原文ママ(下線は筆者による) 重要なことは,生徒らが「社会科で学習していること」をどう捉えているかである。どの記述も,学習していることを限定的で一時的なこととして認識している様子は感じられない。どれも学習していることを,将来にわたって汎用性のある資質・能力として認識している様子が感じられる。中には下線部にあるように,実践で扱うことのなかった過去の学習内容(産業革命)を,環境や人権という視点から新たに意味付け,その一例をもとに,多様な視点から考察することが今後の課題解決の一方策になると捉えている記述もある。 小学校 将来働いたり、社会に出た時に意見を出すことは絶対あるだろうから、例えば新しいアイデアを提示するときに別の立場で見たときの反論や想定されることを色んな視点から考えることができる。 これからの社会で、何が起こっているのかなどを客観的に見ることが出来、自分がどうすればいいのかなどを予想したり,投票したりする時に役立つと思う。 産業革命が起こった時には環境とか人権?という視点が足りなかったように、何かを作り出す時にはその先のことをいろいろな視点から考えて予想しなければならないと思うから。そういう時に役立つと思う。 いが色濃くなる時期に,学習していることが将来にわたって役に立つと認識する生徒の割合が上昇したことは研究の成果として捉えたい。 なお,この8名は「授業のどんなことが,付いたと感じる力に関係していると思いますか(自由記述)」という質問に対して,「いろいろな視点から考える力」の高まりに見えるーペが関係していることを虫眼鏡という言葉を用いて説明していた。また別の質問「学習しているどんなことが,どんなときに役立ちそうか(自由記述)」を尋ねた質問では,例えば以下のとおり記述している。 本研究では,従前の授業でも行われてきた学習活動を,視点が表出されやすい学習活動と捉え直し,思考過程で発揮されている視点を見えるーペを用いて指導者ないし生徒自身で価値付けることを繰り返した。ここで述べてきた結果は,この手立ての有効性を示すものとして肯定的に受け止めたい。 一方で小学生は実践後,どのような反応を示したのだろうか。「学習していることは将来にわたって役立つ」という意識は,中学生と同様に高まったのであろうか。この意識の高まりを小学生でも確認できれば,小中をつなぐ手立てとしての有効性は更に高まる。 しかし,そう単純ではないことが小学生に対する事後アンケートの結果から見えてきた。 図4-2は,「社会科で学習していることは将来にわたって役に立ちますか」という質問に対する小学5・6年生の回答を実践前後で比較したものである。 社会科で学習していることは将来にわたって役立つとこれまで思っていたのに,そ う思えなくなってきた児童の割合が増加している。この小学5・6年生の回答傾向は,図4-1に示した中学3年生とは異なる。なぜ違いが生じたのだろうか。 第3章で実践の様子をまとめたが,小中同じ手立てであっても,小学5・6年生と中学3年生の学びの様子に総じて大差は感じられなかった。実践後の聞き取りでは,小学校2名の指導者も手立てが児童たちにとって特段難しいものではなく,むしろ「子どもたちにとってわかりやすかったと思う」「自分の想定を超えたいろいろな視点から反応が返ってくることもあって驚く」という印象が語られている。筆者や指導者の印象だけではない。実践後には小中ともに「いろいろな視点から考える力」が付いてきたと感じる児童生徒の割合も上昇していたことは表4-1に示したとおりである。これらのことから,本研究の手立て自体は小中で多面的・多角的に事象を捉える力を育む方策として有効であることは感じられよう。しかし,学習していることが将来にわたって役立つという実感は,中学校では上昇し小学校では低下した。 この要因について,実践後の振り返りで小学校の の指導者と共有したのは右のとおりである。 小・中学校 教科指導(社会科) 17 実践前 n95 実践後n100 とてもそう思う そう思う 要因① 将来をイメージしにくいことによる影響 要因② 学習で扱う題材や対象の変化による影響 あまり思わない まったく思わない 51 社会科で学習していることは将来にわたって役に立ちますか?(5・6年生) 図4-2実践前後のアンケート比較③

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