図3-3 生徒Bの考え(明らかな誤字脱字を修正) いえない 一票の格差や死票を生み出すという課題をかかえていたり、住民が選挙に関心をもっていなかったり、選挙 に関する知識が十分になかったりするから ①筆者「どうして『公正』という視点を削除したの?」 ②生徒「最初は,民主政治といえば真っ先に公正という視点が浮かんで,その視点からも書こうと思えば書けたけど, 書いて見ると,自分が大切だと思っているのは国民主権とか国民の意識とか,国民のつながりだなって思っ たから。あと,多数決がいつも公正ではないことは,今日もだけど,前にもあったような気がしたから」 ③筆者「考えを入力する前に視点を選んでいたよね。先にいろいろな視点を決めてから考えを作るの?」 ④生徒「(しばらく考えて)…今日は消したけど『公正』という視点で書けそうって最初に思った。他の視点もないかな と思って,虫眼鏡(見えるーぺ)の一覧を見たら,これって感じだった」 ⑤筆者「これって思ったのは,視点を先に考えたというより,頭の中で浮かんでいる考えにしっくり合う視点を見つけ たって感じ?」 ⑥生徒「多分…。ん?同時?よくわからない。だけど,考えた後に,考えに合う視点を探す方が多いとは思う」 るーぺの一覧の中から「公正」「政策」「つながり」「人権」という四つの視点を選択して予想を入力し始めた。しかし図3-2には「公正」という視点はない。入力を終えた後,しばらくしてからこの生徒は「公正」という視点を削除した。その理由や,予想の入力前に視点を選択していたことについて,授業後に交わした筆者と生徒Aとのやり取りを以下に示す。 このやり取りの全体から,予想を形成する際に視点を意識しようとする生徒の様子が感じられる。それに加えて注目したいことが2点ある。 1点目は②と④の下線部である。最終的には削除された「公正」という視点ではあるが,「書こうと思えば書けた」「『公正』という視点で書けそう」と語っていることから,問いに対して,視点を先に検討してから考えを形成しようとしていた様子が感じられる。これは,視点を自覚的に運用しようとする姿であるといえる。 2点目はこの生徒が④の下線部にあるように,「他の視点もないかな」と思いを巡らせたことである。例えば学校現場で起こる様々な問題に対して,私たち指導者も経済的な視点や安全安心という視点など,いろいろな視点を働かせながら同時に策を講じつつ,他に検討すべき視点はないかと思いを巡らせて解決策を検討するものである。⑤と⑥のやり取りから,頭の中に視点ではなく考えが先にあったのか,それとも同時的だったのか,それは判断できない。しかしいずれにしても,「他の視点もないかな」と考えること自体が視点を自覚的に運用できるようになっていくために,とても重要なことではないだろうか。 (2)事実に基づいて選択・判断する 単元の3時間目には,投票率の低さに関する資料から「日本は民主 政治の国といえるのか」という問いを設定し授業を進めた。生徒たち は,一票の格差問題について調べたり,これまで学習してきた民主政 治を実現するしくみやその課題などから考察し,班の仲間との対話を 経て自分の考えを結論付けていった。生徒Bの考えを図3-3に示す。 問いに対して「いえない」と結論付けた生徒Bは,本時に調べた新 しい事実や,これまでに学習してきた内容をもとに判断していること がわかる。一般的にはここで時間的にも授業が終了となることが多い のではないだろうか。振り返る時間の確保まではなかなか実際に難し い。 しかし図3-3を見てもわかるように,見えるーペを用いて自分の考えが「政策」や「公正」,「立場」という視点に基づくものであることを自分で可視化している。これまでにも述べてきた視点の自覚的運用を促す手立てではあるが,これは立派な振り返りでもある。学習支援ソフトの共有フォルダ内にある一覧から選択するだけなので,振り返りが容易にできる。何を振り返るのか,ぶれにくいところにも利点があると感じている。 小・中学校 教科指導(社会科) 11 45
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