四つの学習活動に取り組む思考過程で児童生徒が半ば無意識のうちに働かせている視点を, ①可視化して明示的に指導する 図2-5 選択・判断する 42 ただ,これを記述した生徒が「産業を予想するなら…まず気候に着目してみるとよさそうだ」「人口という側面からも予想できないかな…」というように,意識的に多面的・多角的に捉えて解決しようとしたのか,それとも無意識のうちであったかどうかまではわからない。問題解決に半ば無意識に発揮している視点の自覚を促す手立てについては本章第2節に後掲する。 ④事実に基づいて選択・判断する 「~するべきだろうか」などの問いによって選択・判断を促す実践は日常的に行われている。選択・判断を促す活動を設定する意図はいくつか考えられる。例えば判断の理由を尋ねることで,自分の考えはどのような事実に基づくのか,論理的に考える力も鍛えられる。また,選択・判断の過程では必然的に判断するための情報を集め,それらを吟味する必要があるので学習内容の定着にも期待できるだろう。 本研究ではそうした意図ももちつつも,視点の習得・発揮という明確な意図をもって選択・判断を促す活動を設定する。選択・判断が求められた際,最終的な判断には自分なりに重視する価値や視点が存在する。そこに着目する。 図2-5は,飛鳥時代から学習してきた天皇中心の 国づくりが奈良時代になって更に進んできているか について考える小学校6年生社会科の一例である。 左の意見は,立場や格差という視点,右の意見は 権力や支配という視点から事実を捉え,結論付けら れている。 内容的には地理的分野や公民的分野に偏る印象があるが,図2-5のように,歴史的分野であっても事 実認識に基づいて選択・判断する学習活動を取り入 れることは可能であると考えている。 ただ学齢によっては,事実認識に基づく価値判断や選択・判断をすること自体が難しいこともある。そうした場合は,事象に対して自分が優先する順位を決め,どうしてその順位にしたかを問うことによって,その子なりの視点を確認するなどの学習活動も想定できる。 (2)視点の自覚化を促す 多面的・多角的に事象を捉える力を問題解決に発揮するということは,課題解決の一方略として多様な視点を自覚的に働かせて事象を捉えられるということである。視点の自覚的運用を促すために,本研究では以下の二つの手立てを講じる。 ・指導者が見取って価値付けること ・児童生徒自身が自らの考えを俯瞰的に捉えること 児童生徒が無意識に働かせている視点を指導者が見取って価値付ける際に用いるのが,第1章第1節(1)で示した見えるーぺである。奈須は著書の中で,「見方・考え方という抽象を児童生徒らが感得するには,児童生徒にもわかる多様な具体的現れとして指導者が教室で体現し続けることが簡潔にして最善の方法である」と述べている(10)。また同著では,授業を通して児童生徒に手渡したつもりの着眼点や方略という,いわば「お道具」に名前が付いておらず,さらにその「お道具箱」を整理する機会がないことが,対象や場面を越えて使いこなせることを妨げる一因になっていることを指摘している。 見えるーペは,社会科で働きやすいと思われる視点を可視化する道具である。ここでは学習指導要領に示される社会的な見方・考え方のうち,特に見方について,内容や内容の取扱い等を踏まえて細分化小・中学校 教科指導(社会科) 8
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