001総教C030705H29最終稿(高橋)
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近年の世界的な人工知能の開発と活用は,私たちを膨大な情報を生かした生活へと導き,暮らしを劇的に変化させている。また,通信技術の進化は,文化や考え方,言語の違う人々とのつながりを加速し,グローバル化を進めている。さらに,2045年に技術的特異点(シンギュラリティ)がおとずれると予見されていることからも,私たちは人工知能を用いたより高度な情報社会の中で情報を活用し,よりグローバル化された社会で,これまでとは異なる価値観で暮らしていくと推測される。 国内においては,人口が2053年に1億人を下回り,2065年には8,808万人になる(1)という推計が公表され,国民の生産年齢人口(16歳~64歳)が現在より大幅に減るという見通しが示された。このことから,国力を未来でも維持するためには,今以上に一人一人が生き生きと働くことのできる社会の仕組みと能力の育成が必要になってくると考えられる。 こうした中,平成29年3月に公示された次期小学校学習指導要領総則の前文には,子どもたちに求められている資質や能力の育成について次のように明記された。それは「一人一人の児童が,自分のよさや可能性を認識するとともに,あらゆる他者を価値のある存在として尊重し,多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え,豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手となることができるようにする」(2)というものである。 つまり,子どもたちには社会の担い手として,グローバル社会においても,自分を大切に,人と人とのあたたかいつながりを大切に,多様な人々と協働しながら前に進む力を生み出せるような能力をもって生きていけるようになることを求めている。 一方,近年の情報社会の中では,誰しも自己と他者が瞬時にコミュニケーションをとることが可能になったことで,子どもたちの価値観の共有・容認・受容する資質や能力が高くないために,課題が生じている現状がある。このままでは,今後の高度情報社会で,多種多様な人々と尊重し合いながら生きていくことは容易ではないと考えている。そこで,情報社会で暮らすために必要な情報モラルの育成について,学校では,指導する教員の力量を高めることが急務であると考えた。 しかし,学校には情報モラルの育成の他にも様々小学校 情報教育 1 (1) 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」2017.4.10 p.1 http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp29_gaiyou.pdf 2017.5.18 (2) 文部科学省『小学校学習指導要領』2017.3 p.2 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/05/12/1384661_4_2.pdf 2018.3.2 (3) ユーリア・エンゲストローム 松下佳代,三輪健二訳『変革 を生む研修のデザイン』鳳書房2015.3.7 な教育課題がある。教員には多くの能力が求められており,情報モラル教育もその一つといえる。研修をするにしても,回数を重ねて学ぶ,得た知識を文書にまとめて提出するといったような,これまでの教員の学び方として多くとり入れられてきた手法の概念を変え,新しい概念で研修を構築することで,教員にとって効率的な学びにする必要がある。 ユーリア・エンゲストロームは,著書「変革を生む研修のデザイン」(3)で,「インターネットとグローバル化の時代において,学習者と実践者は絶えず変化する情報や知識の激流に直面している」また「『研修と教授』のとらえ方は,今日ますます重要な役割を果たしつつある」と述べている。 そこで,情報社会の変化に対応ができる環境づくりの一つとして,変化する情報モラル教育に合わせられる視点を校内研修に取り入れることが必要だと考えた。具体的には,教員が情報モラル教育の学習内容を知り,実際の指導方法(授業実践)までを一体的に構想し,授業実践に移す機会となるものである。毎年変化する子どもたちの実態に合う情報モラル教育を実践するため,その判断を支えられる研修会を提案したい。 今年度は,昨年度に研究実践した,情報モラル教育の授業実践に結びつける校内研修会を核にし,保護者啓発を目指す実践まで取組を広げたい。また,この校内研修会の実践を通して,授業や懇談会がどう家庭教育に支援につながるのかということについて研究を進めたいと考えている。情報モラル教育は,学校だけで完結できる教育ではなく,家庭との連携が不可欠な要素を多く含み,家庭教育支援について校内で共通認識をもって進める必要性があると考えているからである。学校と家庭が,子どもたちを育てるために共に考えて進むことが大切である。 情報社会が進化しようとも,人間にしかできない,人と人とのコミュニケーションを大切にできる社会づくりのために,学校が核となり,社会教育の一端を担うことを望む。 はじめに

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