この三つはそれぞれが学習過程の質的改善や授業改善に向かうために重要な視点であり,上下関係があるものではないことがわかる。 しかし,授業改善においては固有の視点からアプローチを図ることに注視するという記述より,本研究ではとりわけ主体的な学びに焦点を当てたいと考えている。まずは生徒の主体的な学びを促すことで,それが対話的で深い学びと相互に影響し合い,外国語科の目標であるコミュニケーション能力が育成されると考えるからである。 さらに,答申では「主体的な学び」について以下のように説明されている。 ここからは,生徒が主体的な学びへ向かうためには,英語によるコミュニケーションを行う必然性を設定することに加え,生徒が自己評価を繰り返しながら自らの学習に見通しをもつことが重要であることがわかる。よって,次章ではこれらの学びを促すための具体的な手立てを考案していく。 第2節 英語学習に対する生徒の捉え (1) 生徒の英語学習に対する意欲について 現行学習指導要領で学んだ生徒の英語力を測定し,調査結果を学校での指導や生徒の学習状況の改善・充実に活用することを目的として,全国の中学3年生約6万人(国公立約600校)を対象に「平成28年度英語教育改善のための英語力調査」が行われた。この調査は国際的な基準であるCEFR(Common European Framework of Reference for Languages:ヨーロッパ言語共通参照枠)を参考に英語力を測定できるよう設計されている。 ○「主体的な学び」の視点 「主体的な学び」の過程では,外国語を学ぶことに 興味や関心を持ち,どのように社会や世界と関わり, 学んだことを生涯にわたって生かそうとするかにつ いて,見通しを持って粘り強く取り組むとともに, 自分の意見や考えを発信したり評価したりするため に,自らの学習のまとめを振返り,次の学習につな げることが重要である。このため,コミュニケーシ ョンを行う目的・場面・状況等を明確に設定し,学 習の見通しを立てたり振り返ったりする場面を設け るとともに,発達の段階に応じて,身の回りのこと から社会や世界との関わりを重視した題材を設定す ることなどが考えられる。(16) (下線は筆者による) 新学習指導要領解説では,前節第1項で触れた諸課題と外国語学習の特性を踏まえ,目指すべき力の育成について小・中・高等学校で一貫した目標を実現するため,CEFRを参考に,「聞くこと」,「読むこと」,「話すこと[やり取り]」,「話すこと[発表]」,「書くこと」の五つの領域で英語の目標が設定されている(17)。 表1-1はそのCEFR及び,CEFR-J(CEFRに準拠して,日本の教育環境における英語に関する枠組みに特化して開発されたもの。基礎レベルをより詳細に枝分かれさせた日本人英語学習者向けの参照枠)をもとに,同調査において作成された測定範囲表の一部である。 枠線内が中学3年間での育成が目指される範囲であるが,同調査は点線部のA1を中心にレベルを測定できるように設計されている(18)。この表は,高等学校卒業時を見据え,中学3年間でどのレベルまでの力を付けることを目標に指導を行えばよいかの指標となる。 よって,前述の英語教育における課題解決に向け,学習した語彙や表現等を実際に活用する言語活動の充実を図る際には,枠線内の各レベルが表す英語力の目安を参照しながら内容を設定する必要がある。 表1-1 CEFRをもとにした英語力測定範囲表(19)筆者一部改変 中学校 英語教育 4
元のページ ../index.html#6