授業では目的・場面・状況が設定された言語活動が増えてきている。授業とテストの関連性を強めることで,生徒にとっては学習への取組がテスト結果につながるといった好循環が生まれる。テストの作問では,生徒の学習成果が測れるよう,暗記してきたものをただアウトプットするだけの問題ではなく,テストを通して生徒に新たな気付きを促し,思考力を高め,次の授業や学習につながることを目指す必要がある。 今後,増えることが予想される領域統合を意識したパフォーマンステストや総括テストを実施する際には,やはり「何ができるようになるのか(CAN-DO)」の視点を踏まえた評価,単元・年間計画を練っていく必要がある。 (4)「授業は英語で行う」方針へ向けて ①<指導者のパラフレーズ力> 生徒のパラフレーズ力を高める取組を進める中で,指導者のパラフレーズ力も鍛えていく必要があると感じた。指導者は,生徒にとってできるだけ聞き取りやすく,分かりやすい英語を話すことを心がける必要がある。生徒に「わからない,難しすぎる,自分には無理だ。」という印象を与えないことが大切である。目の前の生徒たちの反応を見ながら,臨機応変にパラフレーズし,生徒とのインタラクションや発問そのものも生徒にとってのインプットの一種であることを意識し,日々の授業で繰り返し使いながら,徐々に質問やコメントの種類を増やしていくことが,よりスムーズなインプットにつながると考える。また,発問に対する生徒の答えを繰り返すことを習慣づけ,発言の内容に対して具体的な質問をしてより詳しい情報を引き出すこと等も意識したい。 生徒たちの自然な発話を促すためには,「正解」を求められているのではなく,お互いの考えを自由に伝えることで楽しく学び合う時間になることを理解させ,発信をしても否定されたり恥をかいたりすることはないという安心感を与えられるような雰囲気を作るために,生徒たちの発信内容に敬意と興味を示すことが大切だと考える。 例えば,一つの発問を幾パターンかの異なる英語表現で準備をしておけば,生徒一人一人の理解の程度に応じて英語を使用することの配慮につながる。それでも授業中に用意した発問が生徒にとって理解しがたいときは,安易に日本語を使うのではなく,生徒の使用語彙を指導者が使うことで,もっと簡単にパラフレーズし,理解を伴いながら授業を英語で進めることができるであろう。 中学校 英語教育 30 (47)文部科学省国立教育研究所教育課程研修センター(NIER) 『評価基準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考資料:高等学校外国語』 教育出版 2012 p.25 今後,英語の授業に指導者と生徒によるインタラクションを充実させる過程において,難しい表現をパラフレーズして分かりやすく伝えるなど,指導者の英語力が高まれば,間接的に生徒のコミュニケーション能力の向上に資することになるのではないだろうか。私たち指導者は,自分のパラフレーズ力を鍛えつつ,生徒たちの中に自分のことばで表現する力を育てたいものである。 ②<教室内のインタラクション> 生徒たちになるべくたくさん英語を聞かせ,彼ら自身のことばで自然に英語でのコミュニケーションに向かわせる方法の一つに,様々な話題について生徒とやり取りをする活動,すなわちインタラクションが「授業は英語で行う」際のキーワードの一つとなるであろう。指導者が授業中の様々な場面において英語で問いかけ,生徒からの発話を促すことが求められる。インタラクションを授業に取り入れるメリットは,授業を実際のコミュニケーションの場面にできる点にある。クラス全員ができるだけ多くの英語を聞き,自分のことばで話す場面を増やすことができるのである。指導者からの問いに答える,という流れのため,初期段階においては,発話量は指導者の方が多くなることもあり得るであろうが,繰り返していくことで徐々に生徒の発話量も増えていくと考える。コミュニケーションの場として教室の空間において,楽しく意味のあるやり取りを日常的に行うことが大切である。 最後に,本研究の趣旨を理解しご協力いただいた京都市立向島中学校,京都市立京都御池中学校の校長先生をはじめ,教職員の皆様,そして生徒たちに,この場を借りて心より感謝申し上げます。 おわりに Teacher : What time is it now? Student : It’s ten thirty. このやり取りの後の指導者の返答で考えられるのは,Good!であろうか,Thank you.であろうか。意味のあるインタラクションに留意したならば,答えは明白である。この意識があれば,生徒とのやり取りは多重的に意味をもち始めるのではないだろうか。
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