京都は今や,世界屈指の観光都市としてその名を世界に轟かせている。世界で最も影響力をもつ旅行雑誌のひとつであるアメリカの「トラベル・アンド・レジャー」誌において,京都市は2012年に初のベスト10入りを果たして以降,2014年に1位を獲得,さらに翌年には2連覇を達成し,5年連続ベスト10入りの快挙を成し遂げている。さらに,平成28年度の観光客数,外国人宿泊客数,観光消費額は過去最高を記録した(1)。京都の美しさ・奥深さがしっかりと世界に浸透し,京都が魅力ある旅行先として世界の中で評価され,定着しているのである。これは市民,社寺関係者,観光関連業界,地元企業,大学・学生,行政が一丸となって様々な取組を進めてきた結果だといえる。 例を挙げると,公益財団法人京都文化交流コンベンションビューローは,平成27年度から外国語で京都の奥深い魅力を伝えること,さらには外国人旅行客向けビジネスの展開と雇用の創出を目的に,京都市独自の認定通訳ガイド「京都市ビジターズホスト」の育成を行うなど,受け入れ環境整備等の施策を推進してきた。対象言語は英語,中国語に加えフランス語も新設されたが,とりわけ国際共通語である英語の重要性は高い。また,京都市教育委員会は,優れた文化を守り,次代へ継承していく子どもたちを育むため,「歴史都市・京都から学ぶジュニア京都検定」を実施し,子どもたちが知識と共に体験を通して学ぶ機会を創出する取組を進め,さらに今年度はジュニア京都検定英語版テキストブックの発刊を予定している。 そして,最近では,定番の人気を誇る神社仏閣や日本食だけにとどまらず,地域の商店街や居酒屋,デパ地下グルメ,地域のお祭りなどが人気を集め,よりディープな日本の姿に触れようとする外国人観光客が増えてきている。それに伴い,多言語対応マップや外国人向け観光アプリなどの便利なツールも続々と登場しているが,やはり最後は人と人とのコミュニケーションがものをいう。お花見や初詣,地域で行われる催事等のイベントでは,日本の文化やマナーに詳しくないがために,それが思わぬトラブルにつながることも少なくない。そんなとき,英語でさりげなくマナーを伝えることでお互いが気持ちよく場を共有できたなら,こんなに素敵なことはない。生徒にとって英語に 中学校 外国語教育 1 よるコミュニケーション力を磨き,こうした国際交流に貢献することが自分に対する自信の深まりにもつながっていくのではないだろうか。 また,京都市の平成29年学校教育の重点は,目指す子ども像として,「伝統と文化を受け継ぎ,次代と自らの未来を切り拓く子ども」を掲げ,「文化庁の京都への全面的な移転決定により,今後,千年を超えて今も暮らしに根付く,日常生活における身近な生活文化も含め,京都に受け継がれた文化への理解を深め,その発信とともに発展の担い手の育成に向けた取組がより一層進められることになる」(2)としている。京都の伝統と文化を世界に向けて発信するための英語でのコミュニケーション力の向上,そしてそれを有効に活用する能力をもつか否かは,今や個人レベルの社会的成功にとどまらず,50年後,100年後も世界の京都として我が街が輝き続けるための政治・経済的繁栄にも大きく関わる時代になってきているといえる。 そうした中,高等学校卒業時に,生涯にわたり4技能を積極的に使えるようになる英語力,すなわちコミュニケーションツールとしての「使える英語」の獲得を目指して,日本の英語教育は大きな変化を求められている。平成26年9月に文部科学省は,小学校における英語教育の拡充強化,中・高等学校における英語教育の高度化などを通して,生徒の英語力を向上させることを目指すと提言した(3)。提言の中には,大学入試を「読む」「聞く」中心から,「話す」「書く」を加えた4技能をバランスよく問う入試に変えていく方針も示されている(4)。小学校段階から育成を開始することは英語力の向上に資するものだが,発達段階と学習量を考えると,やはり中学校及び高等学校の英語教育の役割は重要である。 しかしながら,日本の英語教育は様々な点で多くの問題を抱えている。その問題の要因は,母語である日本語と英語の言語特徴上での大きな違い,日常的に使用する環境が少ない状況下での外国語としての言語教育,1クラス平均40人弱といったクラスサイズに代表される教育体制の在り方等である。そしてそれらは,どれ一つとして容易に解決できるものではない。 その一方で,世界の急速なグローバル化を受け,新学習指導要領では英語が使える日本人の育成を掲げ,小学校高学年から教科化,高等学校に次いで中学校においても「授業は英語で行うことを基本とする」(5)など,新たな教育方針を提示しているが,それらは上述の問題を根源的に解決するも はじめに
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