図2-5 逆向きの授業設計による単元の構想例 が,先に目標を決めることですべきことが明確化され,到達させるために選んだ個々の言語活動が意味をもつようになる。そして,活動がつながると,生徒もそれぞれの活動の必然性を感じるようになる。 また,A校では,学校レベルで同じ目標を共有し合い,学校として育成すべき能力の共通理解のもとカリキュラムが編成されている点も注目に値する。指導者だけではなく,生徒にも保護者にも「最終的にはこのような姿になる」「このようなことができるようになる」といった同じように思い描ける共通のゴールを掲げている。ゴールを全指導者が共有し合い,達成に向けて適切な手段を講じようと努力し続ければ,学校が組織として活性化し,指導者一人一人が自分たちのプロジェクトに参画しているという成就感を得られる。A校では,指導者自身がそういった充実感をもちながら授業に向かっている様子が伺える。 また,A校の平成29年度全国学力・学習状況調査生徒質問紙において,興味深い結果が示されている。「外国の人と友だちになったり,外国のことについてもっと知ったりしてみたいと思いますか」の問いに対し,「そう思う」との回答が45.2%(全国36.6%),「どちらかといえば,そう思う」と合わせると70.8%(全国64.3%)の生徒が国際理解に前向きな姿勢を示している。また,「将来,外国へ留学したり,国際的な仕事に就いてみたりしたいと思いますか」の問いに対しては,「そう思う」という回答が29.2%(全国16.1%),「どちらかといえば,そう思う」を合わせると49.7%(全国32.9%)を占め,将来的にさらに英語力を磨きたい,身に付けた英語力を活かしてグローバルに活躍したいという積極的な姿勢をもっている生徒の割合が多いことが伺える。 この指導事項では,聞いたり読んだりする受容面での英語使用を受け,それを話したり書いたりする発信面での活動へと結び付けていき,五つの領域が密接に結 び付いた英語使用ができるような力を育成することを 述べている。すなわち,統合的な言語使用の中で,聞 いたり読んだりして得られた情報や表現を整理・吟味 し,話したり書いたりするために活用することが重要 である。聞いたり読んだりして得た情報のうち,どの 情報を取り上げるのか,またどの表現が話したり書い たりする上で活用できるかについて考えさせることが 重要であることを示している。(34) ここからも読み取れるように,領域統合型の授業では,単に複数の領域を並べてつなげれば,コミュニケーション能力の育成に寄与するものになるということではない。つまり,「読むこと」と「話すこと」がそれぞれにできることと,「読んで話すこと」ができることは必ずしも同じではないということで中学校 外国語教育 11 これらの結果は,A校において実施されている課題解決型の逆向きカリキュラム設計が,生徒の英語学習への意欲に大きく影響している要因の一つといえるのではないだろうか。 このように,逆向きに設計した領域統合型の授業において必要なそれぞれの言語活動に,自己評価・相互評価を通して学びを可視化することが,本研究の目指す生徒像の育成につながると考える。 第2節 領域統合型授業の構築 (1)領域統合型アプローチ 前章第2項で「授業は英語で行う」ことの目的は,授業を実際のコミュニケーションの場面とするためであることを確認したが,その観点から鑑みても,日常生活で行われるコミュニケーションでは,母語・外国語を問わず,「話すこと」のみ,「読むこと」のみなど単一の領域だけで完結することは少ない。複数の領域が関連することが通常であることからも,領域統合の必要性はある。すなわち,複数の領域を統合したコミュニケーションは,より現実的で有効な言語活動ということができるであろう。そのより自然で現実的なコミュニケーションの場を教室内に作り出すことが大事であると考える。 また,新学習指導要領解説では,言語活動を通しての領域統合について,次のように具体的に指導事項を示している。
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