001総教C030705H29最終稿(中澤)
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大切なのは質の高い集団活動を行うことである。本研究では,集団性が高まり,個が育つような集団活動の在り方について考えていきたい。 第1章 幸せに生きていくために 第1節 子どもたちをとりまく環境と求められる小学校 特別活動 1 はじめに (1)集団の中で育む資質・能力 わたしたちは,生まれてから様々な集団の中で生活している。家族,地域,幼稚園,小学校,中学校,高校や大学,職場,地域のコミュニティー,スポーツクラブなど人によっても様々だ。その中で,良好な人間関係を築き,自分の居場所を見つけることが潤いのある幸せな生活を送るために大切だと考えている。 繁多(1)は,このように良好な人間関係を築くための対人関係能力を狭義の社会性とし,社会性の中核をなすものであると述べた。また広義の社会性を「個人が自己を確立しつつ,人間社会の中で適応的に生きていくうえで必要な諸特性」と定義した。人間社会には必ず他者が存在し,集団が存在するので,その中で適応的に生きていくための諸特性を身に付けることが大切なのである。 では,人は社会性をどのようにして身に付けていくのだろうか。繁多は子どもが次第に社会性を身に付けていく過程を社会化と定義し,社会化の過程を「子どもが主体的に社会に働きかけることを通して社会的行動を学習し,自らを社会化していく側面」と,「まわりの人々が子どもにその社会の文化を伝達しながら,子どもがその社会に適応していくのを援助する側面」の二つの側面があると述べた。 また,良好な人間関係を育成するために欠かせないのは「主体性」である。宇留田(2)は, 「好ましい人間関係は,相互理解や協力や寛容を重要な要素としているが,同時に個人が主体性を確立することを不可欠な要件とする」と述べている。また,「主体性と社会性とが調和・統合された人間関係こそが好ましい人間関係といえる」とも述べている。つまり,良好な人間関係を育むためには,「主体性」と「社会性」の両方が必要だと言える。 では,主体性はどのようにして身に付けていくものだろうか。杉田(3)は,「環境に働きかけて自らを生かそうとしたり,本能や衝動を抑えて理性的な行動をとったり,自らの意思で自己決定をし資質・能力 「日本が銀メダルを獲得」世界が驚愕した瞬間だった。リオデジャネイロオリンピック,男子400mリレーで日本が銀メダルを獲得したのは記憶に新しい。リレーに出場した4選手の中に,誰1人100mで決勝に残った人はいなかった。1人1人の力の比較をしてみると,世界メディアはジャマイカとアメリカの優勝争いを予想していた。しかし,結果は予想を反するものであった。この快挙を成し遂げることができた要因は,4人の「信頼」のもとにつくられた,チームワークだろう。4人には,メダルを取るという共通の目標があり,同じ方向に突き進んだことで,チームとしての力が高まり,個々も1+1+1+1が4ではなく,それ以上のものになったのだ。もちろん,この結果を生んだのは4人だけの力ではない。様々な立場の人々の協力があり,みんなで同じ目標に向かって努力した結果である。その分喜びも何倍にもなっただろう。 学校現場でも,大小違いはあるものの,同じようなことを目にすることがある。例えば,最初はバラバラだった学級が,宿泊行事等で,同じめあてに向かって,みんなで話し合ったり協力し合ったりするうちに,どんどん1つになっていくのを感じたことがある。そうなると,学級の中のもめごとが減っていき,授業中も以前より前向きに取り組む子どもたちが増えたてきたというものである。 これらは,個々が同じめあてをもって活動することにより集団の士気が高まり,集団として高まったからだろう。また,それと同時に,自分が集団の中で役に立ったり協力したりする喜びを感じ,個々が集団により貢献していこうという主体性が育ったと考えられる。 しかし,集団活動が必ずしも上記のようにプラスの結果を生むというわけではない。集団活動の結果,みんなに合わせて個性がかくれてしまったり,集団で個を攻撃してしまったりとマイナスの影響を及ぼすこともある。例えば,運動会などで,勝ちにこだわりすぎるあまり,「~さんのせいで負けた」など個人を攻撃してしまい,人間関係が崩れ,個々がマイナスの方向に進んでしまうということもあるということだ。また,それがいじめや不登校にもなりうることもある。つまり,集団活動の質次第でプラスにもマイナスにもなるということである。

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