この数学を現実に即した場面で活用し,論理的に推論し,判断することを求めているPISAの問題解決のプロセスと小山の示す広義の問題解決のプロセスを比較すると,共通点が多くみられる。算数の学習では,日常生活における様々な場面の中から子どもたちが学習する場面を切り取り,数量や図形の事象における疑問を投げかけ,子どもたちがその問題を追究していく学習を展開することが求められている。現実の問題を解決するためにはどのように考えたらいいのか,その視点を広義の問題解決のプロセスに取り入れる必要があろう。 もちろん現実の問題解決だけを目指して算数科の学習を展開するわけではない。習得したことを生かし,より数学の本質に迫るような問題の解決も目指す必要がある。 習得a・活用aの基礎的な探究を通じて習得した概念や法則を用い,数学の本質に迫る問題を追究したり,現実の世界の問題解決に生かしたりする,このような学習過程を展開することで算数科の学習をより充実したものにしていくことが可能となる。こうした学習を展開することが,算数科における探究的な学習である。 第2節 探究的な学習の現状 (1)社会科に見られる現状 社会科では,教科が成立した当初より,問題解決的な学習が展開されてきた。社会的事象について子どもたちが問題や疑問を見出し,諸資料から情報を収集・分析し,さらにその情報を関連付けたり総合したりして考察し,学習問題に対する答えとなる概念の獲得を目指す学習が広く展開されてきた。新学習指導要領では,概念の獲得のみならず,現実の社会における課題について選択・判断を促したり,社会的事象の意味や意義について多角的にとらえて考えたり,未来を志向したり価値判断・意志決定をしたりするなど,これからの社会について構想することも求めている。 価値観形成を目指した構想を意図した学習としては,岩田一彦の規範的知識を獲得させる学習(23)や溝口和宏の価値観形成教育(24),田本嘉昭・佐長健司の価値観形成教育の批判的検討(25)等の先行研究により,多くの授業実践がなされている。様々な実践がなされ,優れた実践の蓄積が見られる現状の中,次の二つの視点を社会科における探究的な学習の課題として挙げる。 まず,取り上げた社会的事象に対する疑問に対小学校 学習指導法 6 して子どもたちが主体的に学習に取り組むことができているかという視点である。小学校社会科において問題解決的な学習を展開するのは,子どもたちが社会認識を獲得するために,その社会的事象について自分たちで調べる活動を通し,主体的にその社会に関わることが重要だからである。子どもが設定した問題に主体的に関わり,その解決を目指す過程を通じることで社会認識が確かなものになる。問題を設定することが目的ではなく,その問題を追究する過程を自分事として考えるからこそ,主体的な学習が展開できるのである。 そのような問題解決的な学習を展開するため,社会科では単元を貫く学習問題と1時間ごとの本時の問いを設定する。単元の学習問題は,学びの本質に向け,子どもが学習に向かうための推進力となるため非常に重要である。単元の学習問題が適切に設定されないと,子どもたちは提示された課題をこなすだけの学習に終始してしまう。それでは適切な社会認識を獲得したり,よりよく社会を考える思考力・判断力等を育んだりすることはできない。そのため,この学習問題をどのように設定するか,単元の目標に到達することができるような学習問題を作るためにはどのような資料と子どもたちを出合わせたらいいのかなど,様々な実践が積まれ,主体的な学びが展開しうる学習問題が構築されてきた。 では,学習問題が設定されたのち,子どもたちは主体的に学習を展開することができているのであろうか。さらに,本当に子どもたちが追究したいという学習問題が設定されているのであろうか。主体的な学びを展開していくために問題解決的な学習を展開することが必要であるが,単元の学習問題を設定するだけで社会科における主体的な学びが保証されるわけではない。子どもたちの学習が主体的に展開されるためには,毎時間の問題追究に意欲的に取り組み続けることも重要である。単元の導入では学習に対して意欲的に取り組んできた子どもたちが,課題を追究している過程でその意欲が持続しないようであってはならない。子どもが単元を通じ,主体的に学び続けることができるような学習を展開することが求められる。 次に,単元における学習の終末の視点についてである。概念探究型の社会科においては,中心概念の獲得を目指して学習を展開するが,答申にも示されたように,習得したそれぞれの知識を関連付けたり総合したりして考察するとともに,未来の社会を志向したり,社会に見られる課題につい
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