図1-1 習得・活用・探究の関係構造 習得aと活用aのサイクルがそれに当たる。1時間の学習の中で課題を把握し,その課題を追究しながら解決を図り,その学習過程などを振り返る中で評価し,新たな課題を見付け,その課題についてさらに追究していくという学習過程を繰り返すことで,一般的な概念や法則などを身に付けることができるようになる。 次に,その基礎的な探究で習得した概念や法則を活用し,さらに物事の本質を追究する発展的な探究に取り組む。基礎的な探究で身に付けた概念や法則などの習得Aを生かす場面として活用Aを設定することで,物事の本質について理解したり考えを深めたりすることができるようになる。 このように,基礎的な探究・発展的な探究を含んだ習得・活用の学習過程が探究的な学習である。 第1節 探究的な学習の姿 (1)習得・活用・探究の関係 習得・活用・探究ではどのような学習を行うことが求められているのだろうか。習得・活用・探究の意味を整理するとともに,それぞれの関係について明らかにする。 学校教育法30条第2項には,「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう,基礎的な知識及び技能を習得させるとともに,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力をはぐくみ,主体的に学習に取り組む態度を養うことに,特に意を用いなければならない」とある。また,現行学習指導要領の総説には,「読み・書き・計算などの基礎的・基本的な知識・技能は,例えば,小学校低・中学年では体験的な理解や繰り返し学習を重視するなど,発達の段階に応じて徹底して習得させ,(中略)思考力・判断力・表現力等をはぐくむために,観察・実験,レポートの作成,論述など知識・技能の活用を図る」(6)とある。つまり,習得とは各教科において考えるための基盤となる知識・技能を身に付けさせることといえる。また,活用とはその習得した知識・技能を使いこなす,より複雑な思考過程で生かしながら使うこと,といえる。 探究については,「物事の本質をさぐって見極めようとする一連の知的営み」(7)と示されている。しかし,はじめから物事の本質を理解することはできない。物事の本質を理解するためには,その本質に関わる知識・技能を習得し,その習得した知識・技能の活用を図りながらさらなる習得を図る,というプロセスを繰り返す必要がある。このプロセスを繰り返すことで,一般的な概念や法則などを習得していく。このようにして習得した概念や法則をさらに活用することで物事の本質を理解することができるようになるのである。習得・活用のプロセスを繰り返し行うことによって物事の本質を探っていく学習過程として,探究が位置付けられる。米田も探究を習得・活用の上位概念として位置付けた授業構成理論を述べている(8)。 以上のような習得・活用・探究の関係を右上図1-1のように示す。探究的な学習は基礎的な探究と発展的な探究のプロセスからなると考える。 まず,基礎的な探究では,基礎的・基本的な知識・技能の習得とその活用を図る。図に示された 小学校 学習指導法 2 では,それぞれの学習過程において,どのような力を身に付ける必要があるのだろうか。 まず習得である。習得の過程では,主に知識・技能を習得する。それぞれの教科等において身に付けるべき知識・技能が各単元や毎時間の学習にある。知識としては,個別の事実的な知識のみならず,それらが相互に関連付けられ,社会の中で生きて働く知識を含んでいる。技能に関しても,一定の手順や段階を追って身に付く個別の技能のみならず,獲得した技能を他の技能と関連付け,主体的に活用することができる技能として習熟することが重要である。 次に活用である。活用では,主に思考力・判断力・表現力を身に付けることを目指す。何もないところから思考活動を行うことは不可能である。物事について思考したり判断したりするためには,そのための前提条件となる知識を理解することが必要となる。その理解した知識を用いることで初めて思考することができる。さらに,知識を比較したり関連付けたりすることなどを通じて思考力・判断力が高まるとともに,思考・判断したことを適切に表現することで表現力を身に付けるこ第1章 探究的な学習とは
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