第4時で習得した知識を基に,トンネル工事が大変そうであると考えている子どもたちであるが,そのトンネル工事についてイメージがほとんどない状態であった。しかし,地図上でトンネルの長さを確認したり映像で竪坑を見たりすることで,子どもたちがイメージを広げ,問題意識を高めることにつながっているのがわかる。さらに実際に竪坑の円周をビニールテープを用いて大きさを示した。図3-4はその様子である。実際にその大きさを体感したことでどのようにトンネル工事をしたのか問題意識がさらに高まり,どのようにトンネル工事をしたのだろうという問題を設定することができた。また,体験したことはこの後の予想の手立てともなった。体験や資料の効果的な活用が,視点を明確にした本時の問いの設定につながったといえる。 イ 発展的な探究の場面の設定 本単元では,発展的な探究の学習場面で次のようなテーマを設定した。 T トンネルが掘られたあたりの映像を見てみましょう。 C 山の中やな。 C ん?なにこれ? C 疏水施設? C 「疏水施設への侵入は通報?」疏水の施設なん? C なんこれ?土管? T 疏水と関係あるみたいですね。この直径,これくらいあります。 <ビニールテープで竪坑の直径をつくる> C みんな入れる。 C 結構大きいな。 T 直径5mほどあります。琵琶湖疏水に関係があるみたいでなんですが…。 C (琵琶湖疏水まで)通ってるんちゃう? C (工事の中の)建物ちゃう? なぜ琵琶湖疏水では通船の復活を目指したのだろう。 本単元で学習してきた琵琶湖疏水は,昭和26年を最後に通船事業を終了している。これまでも何度かその再開を望む声は上がっていたが諸事情により再開されることはなかった。しかし,平成30年からその疏水の通船が復活されることが決まり,国からの補助金やふるさと納税等の寄付を募りながら事業が進められている。その主な目的は琵琶湖疏水の価値や意義をより広く認知してもら <映像提示> 小学校 学習指導法 14 うことと観光事業の促進である。観光のための通船はこれまでも行われてきているため,その趣旨を理解することは難しくないと考える。一方,琵琶湖疏水の価値や意義を広く知ってもらうことを目指すという視点は子どもたちにとっては着想が難しい視点である。しかし,そこにこそ通船の復活を目指した意義や,琵琶湖疏水と自分たちとのこれからの関わりを考える視点が含まれている。先人の築いてきたものが今の自分たちの利益となって残るだけではなく,さらに未来へとつなげていくことが大切であるということに気付くことができる。先人の功績が今の自分たちの生活の礎となっていることを知って終わるのではなく,よりよい社会を築いていく一人の人間として,地域の未来を考える教材として適当であると考えた。 第11時では,これまでの学習を振り返って琵琶湖疏水の意義を考え,キャッチコピーを作る活動を行った。そのキャッチコピーの一部を次に示す。 子どもたちはこれまでの学習を生かし,先人の 偉業についてその苦労や努力を感得し,その意義をとらえていることがわかる。しかし,今の自分たちにとっての価値や意義という視点から琵琶湖疏水の意義をとらえていることもわかる。これは,本単元は今のくらしが先人の功績によるものであることをとらえることを目標にしており,琵琶湖疏水の建設の目的が当時の人々にとってどのような価値をもっているのか,建設に意義があるのか,という視点から学習を展開してきたためである。 琵琶湖疏水は今の京都にとっても,そしてこれからの京都にとってもなくてはならないものである。先人の時代について考えている子どもたちにとって,『今』『未来』という視点から考えることは,単元や教材の性質上,子どもの発達段階からもそのままではなかなか難しい。そこにつながる『琵琶湖疏水 ないとぼくたち 生きられない』 →疏水がなければ電気がなかったかもしれないし,飲み水もない。鉄道もなければ今のような産業発達の社会はなかったから。 『京都を育てる琵琶湖疏水』 →京都の人たちが育っているのは琵琶湖疏水のおかげで水道水を使えているから。 『人々の笑顔につながる琵琶湖疏水』 →琵琶湖疏水があるからお米を作ったり野菜が作れたりするから,おいしいご飯が食べられるようになり,家族,知り合い,友達,自分の笑顔につながるから 『今までも これからも 京都をつくる琵琶湖疏水』 →今までも電車を琵琶湖疏水で作った電気を使っているし,これからも琵琶湖疏水の水で新しい農業が始まるかもしれないから。 図3-4 竪坑の大きさの体験
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