以上のような方策を基に探究的な学習の充実を図った実践について,第3章で詳しく述べる。 実の事象を取り上げる場面もあれば,適応題として有効に取り上げることができる場面もあろう。もちろん,全ての時間の学習をそのように構成することは難しい。数学の世界における数学の事象として問題を考えるべき時は十分その時間を確保する。全てを現実の世界のこととして学習を展開するのではなく,習得したことが現実の世界で活用できるという視点を子どもたちが獲得することで,主体的にその学習に臨むことができるようにすることが大切である。そのような場面を意図的・計画的に設定していきたい。 イ 発展的な探究における活用の在り方 新学習指導要領解説では,身に付けた知識及び技能を活用していくことは極めて重要であると示している(31)。学習して習得した知識・技能を生活や学習の様々な場面で活用することで,子どもにとって学習が意味のあるものとなり,有用性を実感できるようになるのである。それ故,発展的な探究の場面を設定し,単元の終末に習得Aを活用する場面として活用Aを意図的・計画的に組み込むことは重要となる。ではどのような活用場面を設定するとよりよいのであろうか。探究的な学習の出口となる,活用する場面の問題としてPISA型の問題や全国学力学習状況調査のB問題を基に考えてみる。 まず,PISA型の問題である。PISAの数学的リテラシーの定義には実生活・実社会と関わること,実世界化とも関わりながら知識の活用が強調されていること,数学の論拠に基づいて判断することを重視している。つまり,実世界化・活用化・論拠化を求めている。そのような数学的リテラシーの定義の基,PISA型の問題では,その解く能力に応じて再現クラスター,関連付けクラスター,熟考クラスターの三つの枠組みから問題を作成している。再現クラスターのレベルはいわゆる授業における練習問題など,習得した知識の再現に力点を置いた問題,関連付けクラスターは再現クラスターの上位に位置するレベルで,見慣れた場面から拡張され発展された場面において解く問題,そして熟考クラスターは熟考や洞察が必要となる複合的な問題解決を要する能力と定義されている。 次に全国学力状況調査のB問題である。B問題では算数の発展的・教科横断的な内容の問題が出題されている。そのB問題は「知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力」「様々な課題解決のための構想を立て実践し評価・改善する力」小学校 学習指導法 11 (14)文部科学省『小学校学習指導要領解説 社会編』東洋館出版 2008. p.10 (15)前掲(10) (16)前掲(14) p.14 (17)文部科学省『小学校学習指導要領解説 社会編』 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/12/04/1387017_3.pdf2018.3.2 (18) 文部科学省『小学校学習指導要領解説 算数編』東洋館出版 2008.8 p.8 (19)G.Polya『いかにして問題をとくか』丸善 1975.4 (20)小山正孝『新・算数授業講座7 問題解決と総合的な学習の展開』東洋館出版 2000.7 pp..13~17 (21)前掲(20) (22)OECD『PISA2009年調査 評価の枠組み』明石書店 2010.10 p.136 などを図ることを趣旨としている。 このようなPISA型の問題で求められる能力や,B問題の出題の趣旨を比較すると,知識の活用を図っていること,実生活における場面を想定した問題であることなどの共通点を見出すことができる。学習指導要領では,算数で学んだことを生活や学習に活用しようとする態度を養うことを掲げていることから,習得した知識・技能の活用を図る探究的な学習を展開する上で目指すべき活用問題としてとらえることができる。 そこで,このような算数で学んだことを学習や生活に活用する視点を組み込んだ問題を設定し,発展的な探究における活用問題とする。その問題の解決を目指し,基礎的な探究でどのような知識・技能の習得aと活用aをすればよいのかを考え,基礎的な探究の充実を図ることができるような単元を構成し,子どもに付けさせたい力を意識しながら学習を展開することを目指す。 併せてその出口としての活用問題をどのように子どもたちと出合わせるかについても考えてみたい。単元の最後の場面で提示するという方法や,単元の冒頭,途中に提示することで単元の終末における活用を意識できるようにするなどの方法もある。子どもの実態や学習している内容の性質によってその出合わせ方を工夫することで,さらに主体的な意欲を高めることにつながることができると考える。
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