001総教C030705H29最終稿(馬場)
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第1節 本研究について (1)SSTの技法と流れ ャルスキルとストレスの関連が早い段階から指摘され(13),様々な角度から考察が行われてきた。これらのことより,ソーシャルスキルとストレス反応は分かちがたいものであるということができる。 ソーシャルスキルが未熟であると,人と関わること自体が嫌になったり,自信をもてなくなってしまったりするだけではなく,慢性的なストレスによって心身症を発症することにより,家庭内暴力や不登校などの二次的な障害を引き起こすことも少なくない。そのような二次的障害を防ぐために,児童生徒の障害の特性を理解したうえで実態把握をし,ストレスの軽減や解消に向けたアプローチも含めて SSTを実施することが, SST自体の効果を向上させるためにも重要である。また,児童生徒にとって安心できる環境でソーシャルスキルに関わる成功体験を重ねることで,現在の適応状態の改善だけでなく,将来の心理面の問題に対しての予防的な効果につながることも期待できる。 しかし,これまでの研究を概観すると,ストレスに対するアプローチは,青年期に必要なもの,つまりライフスキルの枠組の中で育まれるものとして,特に小中学生を対象としたSSTでは,触れられることが少なかったようにみえる。 瀬戸は「児童にとって,学校での友達関係は情緒安定の基盤であり,元気の源であるが,うまくいかないと逆に大きなストレスになる」(14)と述べている。対人関係の良し悪しによって状況が大きく変わるという意味で,多くの共感を得られる内容であるが,ここでいう大きなストレスに直面した時,児童生徒たちはどのような行動をとれるのだろうか。大人であれば,何かのストレスを感じたとき,これまでの経験の中から問題の解決方法を考え,誰かに愚痴をこぼしたり,そのことを考えないようにしたり,スポーツやショッピングで気分転換をしたりすることで解決することができる。しかし,そういった経験や物理的な自由に乏しい児童生徒は対処に窮してしまうであろう。 ソーシャルスキルが未熟であるために対人関係でつまずき,そのつまずきから生まれるストレスを軽減,解消するためのソーシャルスキルも未熟であるとしたら,ストレスから受けるダメージは大人よりもはるかに大きなものになると考えることができる。このことからも,特にソーシャルスキルの獲得が苦手とされるLD等支援を必要とする児童生徒に対して,ストレスへの対処に関わるSSTを行うことが重要であると考える。 小学校 総合育成支援教育 5 (2)竹田契一・花熊曉・熊谷恵子 『特別支援教育の理論と実践Ⅱ指導』 2012 金剛出版 p.121 (3)文部科学省初等中等教育局特別支援教育課 「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」 2012.12.05 (4)文部科学省 「平成28年度通級による指導実施状況調査結果について」 p.2 (5)相川充 『セレクション社会心理学20 人づきあいの技術―社会的スキルの心理学―』サイエンス社 2000 (6) WHO 「Division of Mental Health」 1993 (7)星槎教育研究所 『クラスで育てるソーシャルスキル』 2002 p.35 (8)Asher,S.R.,&Hymel,S.「 ChiLDren’s social competence in peer relations:Sociometric and behavioral assessment.InJ.D.Wine&M.A.Smye(Eds.)」social competence.Guilford Press, 1981 p.125-157 (9)Fisher‐BeckfieLD.D.&McFall,R.M.「development of competence inventory for college men and evaluation of relationships between competence and depression」 Journal of Consulting&Clinical Psychology,50, 1982 p.697-705 (10)和田実 「対人的有能性とソーシャルサポートの関連:対人的に有能なものはソーシャルサポートを得やすいか?」 東京学芸大学紀要第1部門 教育科学,1991 42,p.183-195 (11) Segrin,C.&Abramson,L.Y. 「Negative reactions to depressive behavior:A communication theories analysis」 Journal of abnormal psychology,103, 1994 p.335-668 (12)嶋田洋徳・戸ヶ崎泰子・岡安孝弘・坂野雄二 「児童の社会的スキル獲得による心理的ストレス軽減効果」 行動療法研究,22,1996 p.9-20 (13)小杉正太郎・大塚泰正・島津明人・田中健吾・田中美由紀・種市康太郎・林弥生・福川康之・山崎健二 『ストレス心理学 個人差のプロセスとコーピング』 2002川島書店 p.66-68 (14)瀬戸美奈子 2014 「子どもたちが抱える学校ストレス」『児童心理』p.50 第2章 効果的なSSTを目指して SSTは行動療法から発展した認知行動療法の技法の1つである。認知行動療法は我が国でも平成22年4月より健康保険が適用可能となり,科学的根拠に基づいた方法として様々な場面で用いられている。治療を目的として生まれたSSTではある

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