国的にLD等通級指導教室の設置や指導が行われる中で,対象となる児童生徒の障害の理解もさらに深まってきている。 図1-1は文部科学省「平成28年度 通級による指導実施状況調査結果」(4)の「通級による指導を受けている児童生徒数の推移」を基に作成したものである。 平成28年の,ADHD,LD,自閉症,情緒障害の児童生徒のLD等通級指導教室への入級者数は10年前と比べて約6倍となっており,通級による指導を受けている児童生徒全体の約60%である。これは近年のADHD,LD,自閉症,情緒障害のある児童生徒への支援の必要性の高まりを明確に示す例である。 その背景として,教育現場や家庭において障害の認知が進み,LD等通級指導教室での指導に対する理解が深まっていることやLD等通級指導教室の設置数の増加などの理由が考えられる。しかし,支援を必要とする児童生徒数の増加にともなって,課題も顕在化してきている。学校によって通級による指導を受けることが望ましいと判断されたにも関わらず,通級による指導を受けられていない児童生徒の増加である。 図1-1 通級による指導を受けている児童生徒数の推移 図1-1からは,平成28年5月1日現在,全国の公立小中学校で通級による指導を受けている児童生徒の数は9万8311人であることがわかる。また,通級による指導を受けている児童生徒数は通級指導教室設置の制度化以来増え続けており,平成18年からの10年間で約2.4倍となっていることがわかる。増加の内訳をみると,旧来から通級指導の対象であった言語障害などの障害のある児童生徒数は漸増であるのに対し,平成18年からLD等通級指導教室対象となったADHD,LD,自閉症,情緒障害の児童生徒数が飛躍的に増加していることが分かる。 小学校 総合育成支援教育 3 (人) 平成28年度,そういった児童生徒が在籍していた学校の割合は全体の47.5%(4)で,この数値は年々増加の傾向にある。同調査では複数回答でその理由を探ったが,最も多い理由は「保護者あるいは本人が望んでいない」というものであった。通級指導教室ではなく,通常学級で指導を受けることに意義を見出す保護者や,在籍する学級以外で指導を受けることに抵抗のある児童生徒の存在が浮き彫りとなった。 第2節 ソーシャルスキルとは (1)ソーシャルスキル及びSSTの定義 ソーシャルスキルは,カリフォルニア大学精神科リバーマン教授によって考案されたソーシャルスキルトレーニングにおいて,「社会的困難を引き起こす原因となるコミュニケーション技術」として体系付けられ,その後様々な研究者によって定義されてきた概念である。しかし,相川は,「ソーシャルスキルは包括的な概念であり,複雑で豊富な内容をもつことや,異なる分野の研究者が異なった目的やコンテクストの中で研究を進めてきたこと,場面によっても変化することなどから,一定の定義は存在しない。」(5)としている。 WHOは1993年,いかなる時代や文化社会においても人間として生きていくために必要な能力としてライフスキルという概念を提唱した。(6)ここでは青年期以降の自立した社会生活に必要となる意思決定や創造的思考,対人関係スキルといった10の項目をライフスキルとしてまとめ,発達段階に応じた技術を身に付ける必要性が指摘された。この概念は学校現場にも積極的に取り入れられたが,その中でライフスキル獲得の前段階で身に付けておくべき能力の存在が浮き彫りになった。それがソーシャルスキルである。 ソーシャルスキルとライフスキルはどちらも対人行動を主とした概念ととらえることができるが,ライフスキルがひとりで生きる力,課題を解決する力につながる個人的なスキルであるのに対して,ソーシャルスキルは社会のルールや対人コミュニケーションを主とした社会的なスキルである。これらは生まれもったものではなく,どちらも家庭生活や社会生活における経験を通して獲得される。様々な場面での対人コミュニケーションの中で,失敗する経験も含めて学び取った事を統合し,よりよい振る舞いややり取りの方法を見出していくのである。対人コミュニケーションが成功した場面では,直後のスムーズなコミュニケーションに
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