最後に,本研究の趣旨を理解し,教育実践に取り組んでくださった,京都市立羽束師小学校と京都市立向島南小学校の学校長をはじめ両校の研究協力員,教職員の皆様,LD等通級指導教室における指導の実態把握のために行ったアンケートにご回答いただいた各LD等通級指導教室担当者の皆様に感謝の意を表したい。各校に在籍する困りを抱える児童生徒が,学級や家庭,LD等通級指導教室の充実したサポートの中で指導や支援を受け,健やかに成長していくことを願っている。 (26) 動物エゴグラム ニフティ株式会社http://www.nifty.co.jp/csr/edu/eg/test.htm 2018.2.20 おわりに 実際の指導の中では,それぞれの学習しているスキルについてお互いが興味をもち,お互いに個別指導で取り組んだことのある活動については指導者の支援がなくても,児童同士で主体的に学び合う姿が見られた。 これらのことにより,指導時間を一部統合した集団指導は,LD等通級指導教室においてより効果的なSSTを行うために有効な方法であると考えられる。それぞれの学校での通級指導の対象児童の人数や学級編成等により状況は異なるであろうが,従来の個別指導,集団指導に加え,指導状況に合わせて,この一部を統合した集団指導の設定や運用を推奨したい。 研究協力校での実践終了後,学級担任及びLD等通級指導教室担当者を対象に研究内容についての聞き取り,アンケート調査を行った。そこでの研究協力員の言葉を1つ紹介したい。 ソーシャルスキルとは特別なものではなく,全ての子に必要であり,便利なもの。ゲーム等を通して楽しみながら学ぶことで意欲が高まり日常の生活に生かしやすくなると感じました。 ここで注目したいのは下線部である。 本研究は,困りを抱える児童生徒へのSSTのあり方を考えるにあたって,LD等通級指導教室におけるSSTに焦点を当て考察を進めてきた。しかし,この研究協力員の言葉にもあるように,ソーシャルスキルを必要としているのはLD等通級指導教室に通う児童だけではない。通常学級に在籍する困りを抱えた児童や,その周りの児童にとっても必要なものなのである。そう考えると,ソーシャルスキルを育成するためのSSTはLD等通級指導教室だけで行うものではなく,通常学級においても実施されるべきものであるといえる。全ての児童がソーシャルスキルを身に付けることで,学級の中でよりよい人間関係が構築され,その学びや環境が充実していくことで,そこに在籍する困りを抱える児童にとってもスキルを般化する上で望ましい場になるは容易に想像できる。具体的には学級担任による支援だけでなく,児童間のモデリングやフィードバックなどを期待することができる。 通常学級でSSTを行うことで,指導者である学級担任だけでなく,学級を構成している全ての児童がそのスキルの価値を理解することにつながる。スキルを学んだ学級自体が使用場所になることか小学校 総合育成支援教育 30 ら般化も容易となるだろう。その中でもなおスキルの般化が難しい児童を対象にLD等通級指導教室等で不足を補う指導を行うシステムが構築できれば,スキル般化に向けてもより効果的な支援となるのではないだろうか。 一方で,LD等通級指導教室担当者へのアンケートや聞き取りでは,児童の抱える困りが整理されていなかったり,在籍学級での支援の方法が確立されていなかったりする段階でLD等通級指導教室に入級し,指導を開始してしまうケースが少なくないことも明らかになった。これはおそらく,早期に児童の困りを軽減・解消したいという学級担任や総合育成教育主任,管理職などの思いから,学校体制の中で迅速な対応を行った結果によるものだと考えられる。これは困りを抱える児童や,支援を求める保護者にとっては少しでも早く不安を取り除くことにもつながり,決して悪いことではない。 しかし,ここまで述べたように児童のソーシャルスキルの向上のためには通常学級での取組が必要である。LD等通級指導教室での指導に先立って,まず在籍学級における児童の実態把握を十分に行い,課題を明確にしたうえで通級指導を開始することによって,児童への的確な指導や支援を行うことが可能となる。また,このことによって児童の支援の中心となるのは,児童の在籍学級やそれを指導する担任であるという意識が高まり,学級担任が中心となり,LD等通級指導教室を含む校内資源を活用しながら学級を中心に児童を支援,育成していくことが可能になると考えることができる。 今後の研究では,在籍学級やそれを指導する担任を中心とした児童の指導や支援について,学級でのSSTのあり方を踏まえ検証していく必要があると考えている。
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