ここでは出題者が問題となる図形を口頭で伝え,回答者が聞き取った通りの図形をかき表すという活動が,SSTのリハーサル場面となっている。この活動の内容を,児童の様子に合わせて,出題者を指導者から児童にする,相談をして回答を1つに絞る,出題する図形を複雑なものにするなど変化させていった。 この活動の第1時では指導者が出題し,児童がそれぞれ回答する形をとった。ここでは図内の網掛けの4項目の指導が可能であり,指導に参加した児童はそれぞれこの項目もしくはこの項目に準じたスキルをスモールステップとしていた。第2時以降も同様のスモールステップに関わる指導を進めたが,ここではその他のスキルも使用する場面が存在した。例えば,児童自身が出題者になる場合には人前で話すために相手と視線を合わせたり,質問されることに合わせて答えたりするスキルが必要になる。また,回答を1つに絞る場面では相手の意見を理解したり,話し合いの内容に沿った発言をしたりするといったスキルが必要となるといったものである。 このような場面ごとの児童の言動の中で,ソーシャルスキルチェック表の項目と関係があると思われるものを示したものが表4-5である。第1時の活動では4つの項目を指導することしかできなかったが,活動内容を変更することで第2時,第3時では10を超えるスキル指導の可能性が生まれていることが分かる。これを前出の表4-4と比較すると点数増加の見られた項目とほぼ合致する。 このことから,ターゲットスキルやスモールステップを設定し構成するSSTでは,児童の困りの軽減や解消が期待できるだけでなく,そのSSTに含まれるその他のスキルの育成にもつながることが明らかとなった。これを視野に入れて同時に複数のスキルを意図的に指導することができれば,より効果的に児童の育成ができるであろう。 つまり,単一のスキルを育成しようとするSSTであっても,そこに含まれる様々なスキルの要素を事前に把握し,指導に生かすことで,より効果的なSSTとなるのである。 (3)指導時間の一部を統合した指導 ここでは個別指導と集団指導それぞれのよさを併せもつと思われる指導形態について提案する。 今回行ったアンケート調査で本市LD等通級指導教室におけるソーシャルスキルの指導の必要性やそこで行われているSSTの現状が明らかとなったが,小学校 総合育成支援教育 28 その周辺のデータ分析を行う中で1つの矛盾に気付いた。LD等通級指導教室におけるSST指導の需要に対して集団指導の実施率が低いことである。 図4-4は本市のLD等通級指導教室における通級児童の主な困りの内訳,図4-5は各LD等通級指導教室における集団指導の有無を示したものである。 図4-6はアンケート項目「同時に2人以上の児童を指導される際,工夫されていること,課題と感じられることがありましたら自由記述にてご回答ください。」への回答を整理したものである。 図4-4 通級児童の主な困り 図4-5 集団指導実施の有無 図4-4を見ると,アンケートに回答のあったLD等通級指導教室に通級する児童269名のうち,67%の児童がソーシャルスキルに関わる困りを抱えており,指導を必要としていることが分かる。その多くは対人コミュニケーションや集団参加の領域に関わるものであった。これに対し,図4-5では,回答のあった56教室のうち59%では集団指導を実施しておらず,ソーシャルスキルに関わる集団指導が行われているのは34%であることが分かる。さらに,集団指導が行われていると回答したLD等通級指導教室であっても,ソーシャルスキルに困りを抱える児童の指導全てに集団指導を行っているわけではない。図4-4及び図4-5は母数の異なるグラフであるため直接比較はできないが,これらのことからソーシャルスキルを主な困りとする児童のSSTの多くが個別指導で行われていることが推測される。 図4-6 集団指導を実施する上での課題
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