平成28年4月,障害者差別解消法が施行された。障害者の社会的不利の原因は,障害者自身の機能障害のみに起因するのではなく,社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものと言われる「社会モデル」(1)の考え方に基づき,障害者を取り巻く社会的障壁を取り除き,豊かな共生社会を構築することが法施行の大きな目的である。ここでいう障害者には身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む),その他心身の機能(難病に起因する障害を含む)に障害のある者が広く含まれており,全国の学校においても関連性の高い法令である。平成18年3月,学校教育法施行規則の一部改正により新たに通級による指導の対象となったLD等支援を必要とする児童生徒も,本法において対象として規定されており,その教育を担う通常学級やLD等通級指導教室の担う役割は大きい。 本市ではLD等の診断のある児童生徒及びその疑いのある児童生徒数の推移を把握するとともに,巡回指導も含めたLD等通級指導教室の開設,運営を進めてきている。平成29年4月現在,LD等通級指導教室は小学校61校(ことばときこえの教室併用12校),中学校17校に設置され,設置された学校及び近隣校の支援を必要とする児童生徒への指導や支援を行っている。 ここでは,LD等通級指導教室への入級時に,児童生徒の障害の状態に応じて,その目標の達成を指導終了の基準として指導が進められている。しかし,実際に目標を達成して指導を終了する児童生徒ばかりではなく,在籍する学校の卒業まで指導が継続する児童生徒もいる。その中には課題を克服しないまま進学したり,新しい生活環境に参加したりしている児童生徒もいるのではないだろうか。次に参加する学校もしくは社会が同様のサポートを展開していれば支援は継続されるが,行動面や情緒面に課題をもつ児童にとっては,新しい環境への適応にこそ困難を感じるのではないかと推測できる。 具体的な状況については,本研究の中で行う実態調査により明らかにするところであるが,LD等通級指導教室への入級希望者が増加している今,そこでの指導の質をさらに向上させることによって,LD等通級指導教室に入級している児童生徒に対する指導をより充実したものにし,一人一人の児童生徒に必要な力を付け切ることが喫緊の課題小学校 総合育成支援教育 1 (1)内閣府『障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針』 2017.2.24 であるといえる。そこで,この課題の解決を目指すべく本研究テーマを設定した。 本研究ではLD等通級指導教室で実施されている自立活動の指導の1つであるソーシャルスキルトレーニング(以下「SST」)に焦点を当て,本市のLD等通級指導教室の指導形態に即した効果的な指導法及びLD等通級指導教室と通常学級,家庭との連携・協働関係構築のあり方を考察していく。 ソーシャルスキルについては一定の定義が存在するわけではないが,大きく社会性に関わる能力ととらえることができ,その能力の育成を目指すSSTは特に行動面や情緒面に困りを抱える児童生徒への指導法として有効かつ重要なものである。 ソーシャルスキルを育成し,それを日常生活で用いることができるようになること(般化)はSSTの最終目標であると言える。しかし,一般的に行われるSSTがそこで得られる相互作用を前提とした集団指導で般化を目指すのに対し,本市のLD等通級指導教室では,SSTの多くは個別指導で行われる。個別指導であることで,本来SSTがもつ,児童生徒同士の相互作用や般化につながる活動に制約が生まれている状況もあるが,教員と対象児童生徒の一対一の指導形態による通級指導であることで可能になる効果的なSSTが存在するはずである。 そこで,対象児童生徒の特性を一定の方法でアセスメントし,実態に合わせて不足しているソーシャルスキルの向上にむけた指導内容を実践する中でLD等通級指導教室におけるSSTのあり方について探っていく。これまでにもLD等通級指導教室で多く実践されてきた人間関係の形成・コミュニケーションに関わる自立活動としてのSSTのさらなる充実が重要であると考えているが,心理的な安定や環境の把握といった情動や認知に関わる領域の指導についても研究の視点として取り入れていきたい。 それに加え,児童生徒が身に付けたソーシャルスキルを繰り返し使用し,日常生活への般化を促す場所として,通常学級や家庭を指導の延長線上にとらえる。ここでのスキル使用と,それによるスキル般化を目標とし,不足しがちなスキルの使用機会を保障することでSSTの内容の充実を図ることができるとともに,通常学級担任や保護者の理解やサポートの深まり,周囲の環境の変化も期待できると考えている。 はじめに
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